「…そのためには、結局は身分のある他国の令嬢との婚姻が必要だと?」

周は自分自身でも、少し卑屈な問い掛けをしたと思った。

背けた視線を母に戻すと、厘は珍しく困ったような表情で周を見つめていた。

「それは…」

流石の厘も、病で気弱になっていたのか。

周はばつが悪くなって、慌てて言葉を続けた。

「母上、捻くれたことを言って申し訳ありませんでした。母上が約束を果たしてくれましたから、俺も自分の発言にはきちんと責任を持ちますよ」

「…周」

「それで?こんな捻くれ者のお相手になってくださるのは、どちらのご令嬢なんです?」

厘はいつの間にかいつも通りの厳しい表情に立ち戻って、こちらを真っ直ぐ見据えた。

「…お前の相手を引き受けてくださるのは、秋雨の領主、占部(うらべ)様の末娘よ」

「秋雨の占部氏、ですか…?あの方は各国の領主の中でも身分について拘(こだわ)りの強い方では」

何度か顔を合わせたことはあるが、上流階級の人間以外とは口も聞きたくない、といった典型的な差別思想の持ち主だった筈だ。

周とほんの二、三言葉を交わす際にも厘の息子だから嫌々仕方なく、という態度があからさまに見て取れた。

「ええ…だから当然、そうすんなりと話が進んだ訳ではないのよ」

ということはこちらも何か、向こうの出す交換条件を飲んだということか。

そうでもなければ、普通なら自分との縁談など引き受けないだろう。

「そのご息女は、生まれつき肺の病で身体が丈夫でないのだそうよ。だから今まで、そういった話とは無縁だったそうなの」