父親がいないことは、気にしていないつもりだったが――やはり心の何処かでは引っ掛かっていた。

それが己の自信のなさに表れていることも、それを貴女に見透かされていることも。

だから領主を継ぐためと継いだ後にも不安がないよう、必要な根回しをしてくれているんだろう。

けれど、貴女の息子が望んでいるのは、そういうことではないんだよ、母さん。

「勿論縁談はきちんと受けます。その代わりに…一つだけ、俺の出す条件を聞き入れてくれますか、母上」

「…え?」

不意の息子からの提言に、厘は顔を顰めた。

それでも周は、厘の返答を待たずに息を吸い込んだ。

「俺の父はどんな人でしたか?」

「!」

「母上が余り父のことを話したくないことは重々、承知しています。けれど俺は、自分が誰の子なのかも解らないまま、自分の父のことも碌に知らないまま、結婚することも父親になるのも嫌です」

周は、厘が何か言おうとするのを遮るように、言葉を捲し立てた。

「ならせめて父は何処の誰か、生きているのか亡くなっているのか、どんな人だったのかくらいは、縁談を受ける前に教えてくださいませんか?」

すると厘は呆れ果てたように首を振って、大きな溜め息を吐き出した。

「…名前は教えないわ。それでも構わない?」

「………」

霊媒師は、姓名を頼りに死者の魂を探し出すことが出来る。

生死に関わらず、父を探すなということか。