ベッドから離れようとする和泉くんと、そこに留まらせようとする私で押し問答をしながらの引っ張り合いになる。
女の私でも本気出せば、ひょろひょろしてて細い和泉くんくらいには勝てるかと思ってたけど、結構力が強くて驚く。
失礼ながらもやしっこっぽいなとか思ってたけど、勘違いだった。

割と筋肉がある。

「聞き分けがないからだろ」
「聞き分け?! それは和泉くんの方でしょ!」
「莉子の方だろ!」

急に呼ばれた名前にびっくりして力が抜けた途端、バランスが崩れる。
両方から引っ張り合っていたのに突然私が力を抜いたりしたから、当然、和泉くん方向に引っ張られる形になって、そのまま倒れ込むハズだった。
だから、衝撃を覚悟して目をきつくつぶった。

けど、私がただ縮こまっていた間に、和泉くんは床に倒れるのをどうにか回避しようとしたようで。

ぼふ、と軽い衝撃しかない事を不思議に思ってそっと目を開けると、ベッドが見えた。
そして、和泉くんに抱き締められた体勢でベッドに倒れている事に気づく。

しかも、私が押し倒している状態で和泉くんを下敷きにしている。

転ぶと思った危機感から感じていたドキドキが、違う理由に変わって更に速度と大きさを増す。

動こうにも、背中にがっしりと回っている腕にどうにもできずにただ混乱しながらドキドキしていると、和泉くんの大きなため息が聞こえた。