と、そこでふとあたしは、あることに気付く。



「そーだっ、名前!」

「は?」

「あたしまだ、君の名前聞いてない!」



なんだか急にいろいろなことがありすぎて、肝心なことをすっかり忘れていた。

そんなあたしの言葉に、彼はふっと笑って。

それから足元に転がっていたトナカイの頭を、軽々拾い上げる。



「……『トナカイ』。」

「へ?」

「俺の名前、戸波 櫂斗。で、『となみ』と『かいと』の頭二文字とって、よく『トナカイ』って呼ばれるんだよ」



さっきまで身につけていたトナカイの被り物を持ちながら、楽しげに笑みを浮かべる彼──戸波くん。

そんな彼を見つめながら、ぽかん、としてしまっているあたし。

戸波くんはあたしが持ちっぱなしだったトナカイの角をあっさり奪うと、被り物のてっぺんあたりにある穴に、遠慮なくぶっ刺した。



「まあ、とりあえず今日は、挨拶がてらってことで。今後じっくり口説いていこうと思うんで、よろしく」

「っえ、え?!」

「あ、俺のことは、どう呼んでくれても構わないけど……けどあんたには、名前で呼んで欲しいかな」

「……!」



意地悪そうに笑う彼に、またあたしは、かーっと顔を赤くする。

いつの間にか、辺りにはちらほら舞う白い雪。道行く恋人たちがクリスマスに彩られた街を、それまで以上に、寄り添って歩いて行く。



「サンタさん、顔赤いけど。今度はあんたが、トナカイ被る?」

「~~ッさ、サンタじゃなくてミタだし!! 顔赤いのはあなたのせいじゃなくて、寒いだけだし!!」



──今宵は聖なるクリスマス。

年が明けて、ふたりの距離が近付いて。

あたしが彼とお揃いでサンタとトナカイのストラップをつけるようになるのは、もう少しだけ、後のお話。





\ Happy X'mas to you!/










/END