「あ、あの……っなんで今日ずっと、黙ってたの? そ、そういう事情があるなら、もっといっぱい、しゃべればよかったのに」



その言葉に、目の前の彼は、どこか不機嫌そうに眉を寄せた。



「……緊張、してたんだよ。今日初めて、あんたと同じシフトになって。しかも長い時間、ふたりきりで一緒にいられることになったから……自分で店長に頼んだこととはいえ、とてもじゃないけど、普通に話したりなんかできなかった」

「………」

「……でも、」



でも、と。

そう言って彼はまた、あたしと視線を合わせる。



「今日、『トナカイ』として、あんたを近くで見てたら──……あんたが、想像以上に馬鹿で。想像以上にうかつで、想像以上に子どもっぽくて、想像以上に無防備で、」

「な、なん──」

「……想像以上に、かわいかったから。なんかもう、どうでもよくなったんだよ」

「……ッ、」



ボッと、まるで火がついたみたいに、頬に熱が集まる。

今のあたしの顔、寒さのせいじゃなく、絶対真っ赤だ。


たけどそこであたしは、ふと気付く。

え……ちょっと待って。

あのとき、ぶつかった相手ってことは。

急ぎすぎて、顔はちゃんと見てなかったけど……でも、あのときあたしが、謝った相手って。