「──、」



自分が、目の前の人物に抱きしめられているのだと気付いたとき。

ゴトン、と足元に、トナカイの被り物が転がった。

それとほぼ同時に、ぐっと両肩を掴まれて。

何がなんだかわからないまま、あたしは“その人”を見上げる。



「と、トナカイ……?」

「………」



そこにいたのは、当然ながら、さっきまでの『トナカイ』ではなくて。

高い身長に、モンブランみたいな、淡い茶色の髪。

短く切られたそれは、パーマなのか天然なのか、無造作に跳ねていて。

涼しげで切れ長の瞳が、今は切なげに、細められていた。

男の人……というよりは、見た目の若さ的に、『男の子』という方がしっくりくるような風貌で。

見覚えのないその顔は、間違いなく、『人間の男の子』、だった。



「……逃げんなよ。ほんとは、ずっとこうしたかったんだ」



耳元で余裕なくささやかれて、またぎゅっと、強く抱きしめられた。

どくんどくん。ありえない大きさで、自分の心臓が大きく鳴っている。

……いや、もしかしたらこれは、彼のも──。