ふと、ラブレターを渡すのを忘れた瞬間、



「誰?」



と、いう低い声を初めて間近で耳にした。



(いけない、いけない。梨々香、ちゃんと言わなくちゃ。)



自分に言い聞かせて息を軽く吸い込む。



「1年E組の持田梨々香です。あっ、あの!成瀬君、これ受け取ってください!!」




(いっ、言った!!)



周りの黄色い歓声がまた聞こえた。



なかなか返答を言わない成瀬君に緊張が背中に走る。




(成瀬君…?)




成瀬君の顔を見上げた先にはひどく冷たい瞳があった。




『いらない。』