あたしはゆっくりと教室に向かう。


あんなに驚いた表情をした翔太は見たことがなかった。

あんなに大声で怒った翔太は見たことがなかった。

あんなに誰かを愛おしそうに見つめる翔太は見たことがなかった。

あんなに優しい顔をする翔太も見たことがなかった…


あたしは数か月間皆と一緒に過ごして、少しは皆のことを知れたような気がしていた。


でも実際は違ったんだ。

何一つ分かってなかった。


翔太の好きな人のことも、こんなにも沢山の表情を見せることも…


よく考えれば分かったはずだった。

そこら辺のモデルなんかよりも数倍かっこ良くて、頭脳明晰で、仏頂面で愛想も悪いけど本当は誰よりも優しい人を、放っておく女の子なんていないって。


どうして考えなかったんだろう。

彼女がいるかもしれないって。


楓花さん…凄く綺麗な人だった。

それだけじゃない。

楓花さんの魔力…翔太には及ばないものの、かなり強いものだった。

それに彼女のオーラは優しさそのものだった。


楓花さんは完璧な女性…

そう思わざるをえなかった。


どこからどう見ても、美男美女の二人はお似合いだった。


それは誰もが思ったこと。