翔太は目を見開いて、楓花さんだけを見ていた。

「…何…で…」


翔太の手があたしからスルっと離れた。

冷たい外気の影響もあって、翔太の暖かみを失ったあたしの手は更に冷たく感じた。


雑踏の中の翔太の声は、余りにも小さかった。


「久しぶり」

楓花さんは、優しくて温かい素敵な笑顔を翔太に向けた。


「…いつ帰って来たんだよ?」

「昨日」

「何で何も言わなかったんだ!?」


翔太が珍しく大きな声を出す。

あたしに向けての言葉ではなかったけれど、思わずビクっと肩が上下に動いた。


「昨日の夜遅くに帰ってきたの。だから今日言いに行こうと思っていたのよ?」

「…俺がどれだけ心配したと思ってるんだ」

「…ごめんなさい」


そして楓花さんはフワリと花が舞い散るように微笑む。


「話したいことが沢山あるの」

「あぁ、俺もだよ」

翔太は嬉しそうな顔をしていた。



あ…あはは…

そういうことなんだ…


あたしはどうやら本当にバカらしい。


翔太がモテることはよく知っていたし、実際翔太のことが好きだという女の子の話も数え切れないくらい聞いた。

それなのにどうして、あたしは考えなかったんだろう。


翔太に彼女がいるのかもしてないって。


こんなにカッコイイ人に彼女がいないなんて、そんな訳がなかったのに。


あたしは幸せそうに見つめ合う二人の空気感に耐えきれなくなって、そっと二人から離れた。