……思い出せば浩太さんは、手もなかなか握ってくれなかった。
付き合う前は、あんまり目も合わせてくれなくて…。

それを考えると、浩太さんは手も握ってくれるし、凄く幸せだと思う。

だけど、あたしは満足出来ないのよ…。
あたしだって、浩太さんにキスして欲しいよ……。



街の穴場で比較的空いてるファーストフードの店。
そこで少し休憩してから、駅前広場を突っ切って、CD屋に向かう。

広場の横のスクランブル交差点で信号待ちをしてる時、あたしは不意打ちで浩太さんの唇に軽くキスした。

声かけると、唇にキスさせてくれないんだもん…。



「浩太さんも、あたしにキスしてくださいっ!」



浩太さんからの返事は、無い。
ただ、浩太さんのあたしの手を握る力が、少しだけ強くなった。


何となく視線を感じて振り返ると、交番の前でサラリーマンのお兄さんが、あたし達を見ていた。

サラリーマンのお兄さんは、すぐに腕時計に視線を落とす。
それから、交番の横にある駅で、駅員に声をかけに行った。




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