よくいるよな、俺様かざしてる勘違い男がさ。
そういう奴に限って、俺様じゃなくて単に横暴なんだ。
ちょっと顔がいいだけの 俺様野郎に間違って惚れちまう女も多いよな。
何がいいんだか、さっぱりだ。
調子こいた奴は女を飾りにして、つけあがって気持ちがないんだよ。
それに気づいた女は別れたいと思っても、奴は離さないんだ…
ちんけなプライドなんか振り回してさ、つまんねぇ男だよ。
俺はどうなんだって?
そうだな、その辺の俺様野郎より、ずっといい俺様だな。
七瀬 偉月、17歳。
トマトジュースにオレンジを入れて飲むのが好きだ。
今、彼女はいないが気になる子がいる。
俺たち2年生の間でちょっとした有名なカップルがいる。
男は 華村、元々ヤンキーだった奴で、女は 湯瀬 伊吹、当然 可愛いと誰もが噂する156センチの小柄な子で、意外に派手でもなく大人しめな感じだ。
この二人が付き合い出したのは1ヶ月前のこと。
噂になれば気にはなる。
可愛いと俺も思ってた。
だが 湯瀬が選んだ男は華村だった。
ハッキリ言って、釣り合ってないんだ。
なぜなら湯瀬の顔が作り笑顔だからだ。
それに気づいたのは、偶然だった。
まぁ、単に俺のカンとも言うが。
気になる女がいると、どうしても探して自分の見える範囲に入れておきたくなるんだ。
目で湯瀬を追い、彼女には気づかれないようにしながら 本当は気付けって思ってるんだ。
でも、湯瀬は俺の気持ちなんて知らないからただの同級生。
高校に入ってから仲良くなった陽史の彼女が、湯瀬の友達だ。
だからよく二人の話は耳にする。
そして、湯瀬はずっと華村と別れたがってると。
「 なんで別れない?」
「 それがさぁ怒るらしいんだ、しかも周りに当たり散らすんだと 」
めんどくせー奴だな。
「 偉月、お前 湯瀬 好きなんだろ?取っちまえばいいじゃん 」
「 うん、私もそう思う!っていうか、伊吹を助けてあげてよ、七瀬くんなら伊吹も言うこと聞くよ 」
おいおい、どんな根拠で言ってんだ?
湯瀬が俺の言うこと聞くなんて なんでわかるんだよ、意味わかんねぇ
「 湯瀬が、俺に助け求めたらな 」
他に言いようがない。
これはたぶん、俺が湯瀬に片想いなんだろう。
なのに、なんで俺の言うこと聞く?
ない頭で考えても答えはない。
それがある時、奇跡的に、俺と湯瀬が近づいたんだ。
学校帰り、ぶらっとゲーセンの前に来て偶然にも華村と湯瀬がいた。
足を止めて何となく見ていると、湯瀬が華村から離れようとしているが、華村が湯瀬の腕を掴んで離さない。
何やってんだ、アイツら……
湯瀬、嫌がってんじゃん
「 もう、離して!こういうのが嫌なのっ ほんとヤダ!」
なに、ケンカ?
「 お前は俺のそばにいなきゃ意味ねぇだろうがっ 」
は?なに、言ってんだ?お前といる意味がそもそもないんだよ、ボケ!
「 った… 痛いよ、離して!」
華村の奴…
「 来いって!」
「 やっ! …きゃ 」
あっ!! あん、の野郎っ
腕を強引に引っ張った反動で、湯瀬が前のめりにつまずいて転んだ。
俺は…俺の中で何かが、ブチッとキレた。堪忍袋の緒がってやつだ。
「 テメェ… 華村ぁーっ!!」
バスケバカな俺は一応ダンクも決める奴だから軽く拳をボールに見立てて、華村にダンクをかました。
周りにいた人だかりが俺たちに集中するが、ケンカだとわかれば見るだけ見て通りすぎる。
「 湯瀬、俺と来いっ!」
「 えっ… 七瀬く… 」
俺は湯瀬の鞄と手を取って走った。
湯瀬を気にしながら、走った。
どこか隠れるとこは…
どこに… あ、いやでも… ま、いっか。
走ること10分…
湯瀬の事を考え、近くにあったスーパーのところにある証明写真機に入った。
入ってから、あ、しまった… と気づいた。スーパーに入れば良かったものの、隠れようと頭にあったせいで、こんなところに入ってしまった。
「 ぷ…… 」
えっ?なに?
「 湯瀬? どうした?」
「 だって… まさかの場所に隠れるから、おかしい」
「 俺も、しまった!とは思った 」
笑らいすぎ… けど、湯瀬が笑ってる。
俺いい奴じゃん!
「 ありがと、七瀬くん。ほんとに… 嬉しかった。」
湯瀬のはにかむ顔が たまらなかった。
俺は完全な俺様じゃないけど、湯瀬が好きだから… 助けるんじゃなくて奪いたくなった。
華村なんかに、湯瀬はもったいない。
俺はこの笑顔が好きだ。
俺は1つしかない丸椅子に湯瀬を座らせてから、自販機でミルクティを二人分買ってカーテン内に入った。
湯瀬のミルクティのプルトップを開けてやってから飲んで、本当に一息ついた。
「 華村と別れたら?」
「うん… 何度か言ったんだけどダメなの 聞いてくれなくて。私ね、華村くんと付き合うキッカケが、今の七瀬くんみたいに助けてくれたからだったの。ちょっとナンパに引っかかってね、しつこくて、華村くんが助けてくれて 半分強引にだけど付き合う事になっちゃって… 」
へぇ… 華村が助けたんだ。
まぁ、女は弱いんだろうなぁ、ヒーローに見えたのか?
「 でも別れないと ずっとじゃね?」
「 ん… 別れたいよ。気持ちなんて、ほんとにないから… 悪いし… 」
いっそ俺が奪おうか?
そう言いたかった、でも、奪うのはいい気がしない。
彼氏がいる子を好きになったのがもどかしい。
「 私を彼から奪って!とか言ってみたら?誰かいないの?」
恐ろしい冗談が自分の口から出た。
奪いたいのは俺なのに…
情けない。
好きだとも言えない自分が。
俺様だったら、今とっくに奪ってやるって言ってるんだろう。
ミルクティの甘い香りが鼻につく。
不意に俺は思った。
湯瀬と今キスしたら、ミルクティの味がするんだろうなって…
良からぬ事を考えしまった。
一度考えると、つい唇に目がいってしまい、自分のやらしさが恥ずかしい。
何だかムズムズと、男のくせに、男になれない自分にイラつく。
「 七瀬くんは彼女作らないの?」
え… 作るも何も目の前のアンタが好きなんだよ、わかるわけないか…
「 欲しいよ、好きな子もいるしね 」
「 えっ… いるの?誰!なん組の子!」
いや、言えるかよ!湯瀬、お前だ、お前だって!
湯瀬が、俺の好きな子を知りたがって食いついてくるが、まさか言えるわけがない俺は逃げ場がなかった。
「 湯瀬~ そんなん聞いてどうすんの?」
しばらく黙ってしまった。
「 湯瀬?」
どうした?なんか、変な事言ったか?
「 さっき言ったよね… 誰かに奪ってって言えって、七瀬くんじゃダメ?」
手に持ったミルクティ缶を落としそうになった。
今の… マジで言った?
「 七瀬くん、ダメ?」
ダメじゃない… けど、俺を好きなのか?
俺は、答えられなかった。
湯瀬が、俺を好きなら奪いたい。
でも 華村と別れたいからが理由なら、俺は…… 無理だ。