「李桜、起きて~!」


美味しそうな臭いと大好きな声で目が覚める。


兄ちゃんの手にはプラスチックのお皿が乗っていて、湯気が立っていた。


くぅぅ…


と、俺のお腹が鳴ったのを笑いながら、兄ちゃんはテーブルにお皿を置いて俺の身体を起こしてくれた。


介護されてる老人の気分…。


「それ、抱きしめて寝てたんだ?」


俺の左横に寝ている平たいウサギのぬいぐるみを指差して、兄ちゃんはからかうように俺を笑った。


誰から貰ったのか忘れたけど、なんか気に入ってて部屋に置いておいたんだ。


寂しかったから。


…なんて、言わないけどさ。


こんな平たいウサギに頼った理由なんて。


…あんまり言うと可哀想かな。


左手でぬいぐるみのお腹を撫でて、心の中で謝っておいた。


「李桜、あーん」


ウサギのことで頭がいっぱいだった間に、兄ちゃんは冷ましたお粥を俺に差し出していた。


あーん、って言ってる兄ちゃんが口を開けてて、可愛くて笑う。


「…あー」


ぱくっ


口に入ったお粥は、少し熱いけど美味しい。


…兄ちゃん、料理下手くそなのに。


珍しく美味しくできていて、少し感動した。


卵のお粥って、なんでこんなに美味しいんだろ。


「ぁぁぁ…可愛いぃぃ…」


なんか言ってる兄ちゃんはほっといて、俺はお粥を黙々と食べた。


食欲はあまりなかったけど、兄ちゃんが食べさせてくれるのが嬉しかったから。


「ごちそーさま、でした」


「お粗末様でした♪」


空っぽになったお皿を嬉しそうに見て、兄ちゃんは台所へ片付けにいった。


そして、次に持ってきたのは勿論…


水の入ったコップと


俺の天敵。


俺は布団の中に潜って、身体を隠した。


だから風邪は嫌なんだよ!!


俺の天敵。それは、薬と注射。


玉薬も粉薬も飲めない。


だって、苦いじゃん!


「りーおー!逃げるなっ!」


「やだっ、苦い!!」


やだじゃないっ!!そう言われて、俺の掛け布団は何処かへ消えた。


いっきに外気にさらされて、寒さで思わず縮こまる。


ぎゅうっと身体を締め付けられて、なんの抵抗もできなくなった。


「捕まえた♪大人しく薬飲もーな?」


「やぁぁ!!」


兄ちゃんの鬼っ!!悪魔!!


頭の痛みで言えないことを、心の中で叫ぶ。


この薬が有り得ないくらい苦いってことは知ってるんだよ!!


半泣きの俺を見て、兄ちゃんは困った顔をして…


「しょーがないなー…」


と言って、自分の口に水と薬を入れた。