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自動販売機のボタンを押しながら、俺は坂口さんが公園で猫を抱えていた夜のことを思い出していた。




ーー『……晃…』


そう呟いたときと同じ目だった。

あの目をしているときはきっと、坂口さんの目には俺じゃなくて''大谷晃''が映ってるんやろうな…



松田さんから彼の話を聞いて、坂口さんの背負うものは想像していたよりもずっとずっと大きなものだということを知った。

それを聞いた日の夜は、涙が止まらず少しも眠れなかった。



だけど、一瞬たりとも坂口さんに近づくのをやめようとは思わなかった。

寧ろどう接すれば彼女のためになるだろうとか、そんなことで頭がいっぱいだった。


''坂口さんの笑顔が見たい''

過去を知る前も、知った今も、
その想いは少しも変わることはなかった。