しばらくして、彼女の声が聞こえてこなくなった。
心配になって図書室のドアに手をかけようとしたとき、
ーガラッ…
手が触れる前にドアが開いた。
目の前に立つ松田さんの姿をみて、彼女が開けたのだと理解した。
『!
…宮本先生』
驚いたように目を見開いた彼女は、
小さな声でそう呟いた。
そして、眉を少し寄せて目を泳がせる。
その瞼はわずかに赤みを残していて、
心なしか腫れているようにみえる。
『松田さ…』
『わ、私っ…本を返しに来ただけなので、
そろそろ帰ります!』
俺の言葉を遮るように、
いつもの笑顔を見せて逃げるようにその場から離れようとする。