教師として、声を掛けるのが当然なのかもしれない。

だけど、脳裏に浮かんだ彼女の笑顔が
''近づかないで''と言っているようで…

それ以上、足を踏み入れることができなかった。




中に入ることも、そこから離れることもできなくなった俺は、
ドアの横の壁にもたれて息をついた。



『…う…っ』


静かな廊下に、
彼女の小さな嗚咽だけが微かに聞こえる。




強いわけじゃない。

彼女だっていつも泣いていたんだ…




そんな当然とも言えることを
俺は今になってやっと気づいた。


ひとりきりで泣く彼女の姿と、
何もできない自分の不甲斐なさに
胸の奥がキリキリと音を立てて痛んだ。