俺は彼女を、なんて心優しい子なんだと、
なんて強い子なんだと、思っていた。
未熟な俺は坂口さんばかりに気を取られて、彼女の本当の姿に気づけなかった。
再び彼女の涙を見るあの日までは。
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坂口さんが学校を休んだある日の放課後。
俺は、いつも通り
サッカー部の練習を見ていた。
『あ!!!』
一人の生徒の蹴ったボールがあらぬ方向へ飛んでいき、校舎の辺りまで転がってしまった。
『あ〜、やっちゃった』
『俺が取りに行くから、違うボールでやってて』
『ごめん、先生!』と、手を合わせる生徒に、近くにあった別のボールを蹴り渡し、小走りでボールを取りに行った。