「う~ん、嫌だよな。まあ、かっこつけちゃったのかな」

苦笑いして言った健吾を見て、ふと感じた言葉が口から出る。

「伊東さんの口から聞きたくなくて、健吾が答えたの?」

私の言葉に健吾は何も返さなかった。真意は分からないけど、私もそれ以上は聞くのをやめた。
何だか朝からディープな話になっちゃった。これから仕事だっていうのに気持ちを変えないと。
さりげなく違う話題に切り替えて、目の前に見える会社に向かって足を進めた。

営業部のフロアに到着し、自分のデスクに向かうとすでに澤田くんがパソコンを打っている姿が見える。
相変わらず仕事始めるの早いなぁ。自分のデスクにバッグを置き、澤田くんに声をかけた。

「おはよう、澤田くん」

「あ、おはよう」

パソコンから健吾と私に視線を移し笑顔を見せた。

「隼人おはよう。昨日悪かったな」

「ああ、いいよ」

男同士の会話というか、多くを語らず通じ合っている。

「昨日は2人でだいぶ飲んだのか?」

「え・・」

昨日のことを思い出す。
これから2人で飲み比べると言っておきながら、実際2杯で店を出たなんて言うべき?また変に健吾に気を使わせちゃうよね。そう考えていたら澤田くんが間を置かずに答えた。

「飲んだよ、柚原強いから僕もついていくの大変だったよ。でも美味しかったよね、柚原?」

突然の嘘に口が開いてしまったけど、ウインクして微笑んでいる澤田くんを見てここは合わせることにした。

「うん・・美味しかったよね。でも、澤田くんこそ飲んでいたよ私よりね!」

「そっか、楓は飲むからな。でも隼人もいい勝負か。それだけ飲んだなら昨日のお詫びに俺が払うよ」

「いや、今回はいいよ。その代わり次の飲み会は健吾の奢りでよろしく。柚原、楽しみにしていようね」

健吾が気を使って支払おうと財布を出そうとしたけど、それよりも早く澤田くんが止めた。
そんな澤田くんに健吾も納得して「わかった、じゃあ近いうちに」と約束した。
澤田くんは何かと話をおさめてくれる。ばれていた私の気持ちもサラッと言って私を励ましてくれた。
きっと健吾の気持ちも理解している。
そうして私達の間で爽やかに話をまとめてくれる。
昨日私が辛かった気持ちを隠す為に嘘までついて。

澤田くんって本当にいい人なんだなぁ・・・健吾への気持ちがばれたのが澤田くんでよかった。
ばれてしまった事にはすごく動揺だけど、悪いことじゃなかったのかもしれない。

『頑張れ』って言ってくれたしね・・・頑張らないとね。