「楓、楓、どうした?ボーっとして。まだ酔うほど飲んでいないだろ?」

健吾に呼ばれてハッとして前を見ると、健吾が私の顔を覗き込むように見ていた。

いけない・・つい健吾が伊東さんの恋愛話をどんな顔で聞いているのか想像しながら時が止まってしまった。

「ごめんごめん、酔ってもいないのにボーっとしちゃった。ちょっと仕事のこと思い出したの」

嘘をついてごまかす。いけないいけない、集中しないと。
伊東さんに向かって『ごめんね』って謝ると、『いいえ』ってまたあの可愛い笑顔で返してきた。

「みなさん同期なんですよね、仲が良くて羨ましいです。私はあまり同期の飲み会とか参加していないから、なんかこんな雰囲気いいなって思いました」

伊東さんが羨ましいと言った表情に嘘はない感じがした。

「そう?でも今まで3人揃ってっていう飲み会はほとんどなかったんだよ。この前接待の帰りに、3人で飲むのは本当に久しぶりだねって言いながら飲んだの。伊東さんは会社の飲み会って苦手?」

私も率直に思ったことを口にした。

「私はみんなで飲むのとか好きなんですけど・・・その・・彼氏があまりいい顔しないので・・・」

ためらいがちに伊東さんがつぶやいた。健吾も澤田くんも何も言わずに聞いている。
まあ・・健吾はいろいろと伊東さんから聞いているのだろう。
でも、何も言葉を出さずに伊東さんの顔を見ているから、私が話をするべきなのかな・・と思った。
まあ、彼女の悩みを聞きに来たわけだからね。

「彼氏もさ、いくら会社の集まりと聞いてもやきもち妬くってことかな?異性のいる集まりに行かせたくないのね。でも、今日だって2・2で飲んでいて合コンみたいに思われると思うけど大丈夫なの?」

今日のこと彼氏に言ってきたのかな?勘違いされたらヤバイよね。
でも、伊東さんは顔色変えずに言った。

「今日、みなさんと会うことは言ってません。ナイショと言うか、今喧嘩しているというか、あまりに束縛が凄いので少し前からもめていて、どうしたらいいか悩んでいるんです・・」

それで健吾と連絡取っていたんだ・・・。
伊東さんがそこまで話したとこで、健吾も話し出した。

「最近伊東さんが元気なかったからさ、俺も気になって聞いてみたんだ。あまり話したくないことだったと思うけど話してくれたから、ちゃんと一緒に考えたいと思ってさ。でも俺が伊東さんにとっていい意見が言えるか分からないから、楓にも隼人にも一緒に話を聞いてあげて欲しいと思って今日来てもらったんだ。楓と隼人だから安心して相談してみなって言ったのに、なんか緊張させてごめんね。でも、せっかくだから何でも思っている事言ってごらん」

すごく優しい言葉だった。

その優しい言葉が私の心に突き刺さった。
それは健吾の愛情で、話しながら伊東さんを見つめる目に全てが込められてる。
そんな眼差しに、伊東さんは気付かないのかな?