「確かに限界だったのかもしれない。でもそれは山中くんのこと負担に思うとか、嫌だったとかこういうことじゃないよ。山中くんのこと想い過ぎて、諦めることもできなくて苦しかったんだと思うよ」

予想外の言葉を聞いて、健吾は理解ができなかった。

「楓は山中くんにとって女友達っていう存在でいるのがもう限界だったっていう意味だよ」

「・・言っていることが分かりません」

「長い間好きな人の恋愛相談にのったり、応援し続けることに疲れちゃったんだよ。山中くんは楓の気持ち気付かなかった?自分の恋に夢中で」

驚いた顔をしながら首をわずかに振る健吾を見ながら、咲季は心の中で祈った。

   -お願い・・・楓の想いを受け止めて・・-

「楓はね好きな人とは友達にならないって心に決めていたのに、山中くんのことを好きだと気付いた時に彼女がいるって知ったわけだからね・・」

「えっ?俺に彼女がいるって・・・」

「そう、そんな前からってこと。それでも友達としてでも山中くんのそばにいたいって思ったのよ、楓は。笑いながら相談にのったり、応援したり、振られた君を慰めたり。そしてまた自分以外の人を好きになった君の協力をしてさぁ。自分の想いとは違う言葉を伝えている事に、山中くんに嘘ばかりついているって何度も何度も後悔していたよ」

動揺を隠せない健吾を見ながら、全てを伝えないと本当の想いは伝わらないと感じる。

「山中くんに幸せになって欲しいなんて思ってないとか限界だとか言ったみたいだけど、本当はちゃんと山中くんの幸せをいつも一番に考えていたよ。山中くんが自分を好きにならなくてもね。だから6年近くもそばにいて、片思いができたんだよ。でも伊東さんとのことで彼氏に山中くんが自分の気持ちを抑えて彼女のことを信じて下さいって頭を下げた君の気持ちを考えて辛くなったんだろうね・・それがきっかけで思ってもいない嘘交じりの気持ちをぶつけて、無理やり全てを終わりにしようと思ったみたいだし」

初めて知る楓の気持ちに混乱しながらも、今まで自分が見て接してきた楓とのことを思い返して咲季の話したこととそれらを照らし合わせていた。
そんな風に視線を落とし考えている様子の健吾を暫くそっとしながら隣にいる隼人に視線を向けると、優しい微笑を咲季に見せた。咲季が話を始めてから一切言葉を挟まず2人を見守ってきた隼人に咲季は少し照れ笑いを見せる。

そんな無言の空間におばちゃんが優しい声で健吾の前に頼んでいないドリンクをコトン置いた。