そう言って疑いの視線を送る私に手をヒラヒラ振りながら、自分のデスクに戻って行った。意外なことを知り暫く頭の中を巡っていたが、手元のファイルに視線を落とすとまだやるべき事があったことに気持ちを戻してその作業に集中した。

そしてそれから1時間程で終わることができ、帰宅の支度をした。
近くのデスクの男性社員から『飲みにでも行かない?』っと声をかけてもらったけど、『今日はすいません』と頭を下げながらやんわり断って席を立ちコートを着てフロアを出た。

外に出ると顔を刺すような冷たい風を感じ、顔をしかめて風に耐える。
そして歩いていると、さっき英輔と話したことが頭を巡る。なるべく考えないように頭の中から追い出そうとしていたこと。

   -もう私のそばに健吾がいないー

こうして一人になると、押しつぶされそうになるほど喪失感に襲われる。

   -寂しいー

何度も何度もその感情が身体を巡って、ついつぶやいてしまう。
それでもいつも通りその気持ちを振り切るようにスピードを上げて駅に向かって歩く。