「でもさ、正直な話後悔はしてないか?こんな話するのもなんだけどさ、これでよかったって楓はちゃんと思えるか?」

英輔が聞いてきた言葉の意味は、無視しようとしても私の胸に大きく響いた。

「何で?後悔しているように見える?」

「見えないけど感じるよ」

気持ちを悟られないように少しおどけながら答えたけれど、英輔にはキッパリ言われてしまった。
動揺が顔に出てしまう。自分が最も避けていた所を正面から当たってこられたらごまかしきれない。

「後悔はね・・していないつもり。自分で選んだ答えだから後悔はしないって決めたから。転職してまだ大変だけど、いい仕事だなって思うし。職場の人達も優しくしてくれて本当に安心したし。だから後悔はしていないの」

「そっか」

英輔の聞きたい答えはそれだけではないだろうけど、私の言葉に安心したような笑みを見せる。そんな英輔の顔を見ながら私の心に燻っている一点の感情を正直に伝える。

「でもね・・・やっぱり寂しいの。いつも心にあった気持ち・存在を感じられなくなって、自分の心が離れた所にあるみたいで。ふと身体の中が空っぽになったみたいな感じになるんだ。これが失恋の感情なのかな?」

そんな言葉を冷静に言えてしまうところが自分でも分からない。

「楓・・・大丈夫か?」

小さく優しい声で聞いてくる。こんなこと聞かされて英輔も困るよね。
いつも英輔に相談する時の私は情けない。そんな私の話を呆れることなく聞いてくれることに感謝だけでなく、申し訳なく思う。いつも私だけが相談したり愚痴を言ったりしているけど、英輔の恋愛話は聞いたことがなかったことにふと気付く。

「大丈夫だよ~。それより英輔の恋バナって聞いたことないよね?今更だけど彼女はいるの?」

「今更か?まあ彼女はいないよ」

呆れたような顔して返事してくる。

「じゃあ、好きな人はいるの?」

「う~ん?まぁね、気になるって感じの人はいるよ」

「うそ!早く教えてよ。誰?会社の人?」

驚きのあまり矢継ぎ早に聞く私に苦笑して腕を組む。

「簡単には教えないよ、秘密~」

「ずるい!自分だけ秘密にするなんて」

呆れた顔して非難をぶつけ、笑いながら腕を組んでいる英輔の肘あたりを軽く叩くと、また笑って答えた。

「じゃあ今度教えてやるよ」

「本当に?逃げたりごまかしたりしないでよ~。なんかずるいよ、私ばっかり情けない話して」

「分かった、分かった今度な」