「私、転職することに決めました」

いつもと変わらない残業の作業を止め、周りに人気がないことを確認してからそばにいる咲季先輩に伝える。

「・・えっ??」

突然のことにキョトンとした顔を私に向けた。
私がそれ以上何も言わずに咲季先輩を見つめていると、どういうことか察知したらしく言葉を続けた。

「嘘でしょ…」

呆然と私を見つめる咲季先輩に心が痛む。そんな顔をさせてしまったのは私なのだけど。
話が話なので休憩スペースに移動することにした。
横並びに座り、咲季先輩の顔を見ると悲しそうな表情をしている。

「ごめんなさい、こんな選択しかできなくて」

申し訳なくて頭を下げる。私がこんな選択をすることを望んでいないことはちゃんと分かっている。

「逃げるようなことしちゃだめだって分かっているけど、このままじゃダメだと思って。健吾のそばにいても自然にできなくて。今まで気持ちを隠して2人の関係を築いてきたけど、もうこれ以上できなくて。健吾の幸せを願っていないって言って失望させた私は、やっぱりもうそばにいられないです」

「楓・・・」

「5年以上そばにいてこのままでいいって思ってきたけど、その時と同じように接することがもうできなくて。仕事の話はできても、それ以外で目を合わせることすらできなくて。私らしくいることがすごく難しいです。いろんなこと考えている時友達に転職誘われていた話を思い出して、何度も考えたけど逃げる答えしか出せませんでした。大人なのにこんな道しか選べなくて恥ずかしいけど、気持ちを整理するためにも今できることをしてみようって。甘い考えを選んでしまいました」

うまく伝わらないかもしれない。
咲季先輩にはたくさん相談してきたのに、こんな大切なこと相談しなくてがっかりさせてしまったと思う。
私の言葉を真顔で聞いてくれていた咲季先輩は寂しそうな顔をして聞いてきた。