「伊東さんの気持ちを理解して、健吾は守ったんだと思うよ・・」

視線の先に伊東さんの彼氏に頭を下げていた健吾の姿を思い出してしまって、胸がざわつき目頭が涙の重さを感じて無意識に揺れる。
そんな私の様子を伊東さんは感じたのかもしれない。探るような瞳で聞いてきた。

「柚原さん・・あのもしかして・・山中さんのこと・・」

その言葉に左の瞼がピクッと痙攣した。

「・・何が?」

一瞬つまったけど、何とか動揺を隠して聞き返す。
悟られたくない気持ち、彼女には。こんなことを話していれば気付かれてしまうのは、あたりまえかもしれない。それでも嘘を突き通したかった。

「もしかして山中さんのこと・・好きなんですか・・?」

囁くような小さな声で真っ直ぐ聞いてきた。

「違うよ」

即答で答えを返す。これだけは自分が通さなければいけないこと。『そうだよ』とは絶対に言えない。

「勘違いさせちゃったかもしれないけど、それは違うの。健吾とは同期で付き合いが長いからどうしても健吾の味方になっちゃうから。あの場に健吾を呼んだのは私だし、責任を感じていたの。ごめんね、変なこと考えさせちゃって」

「いえ・・」

納得している感じはないけど、これ以上話していたらだめだ。今の不安定な感情で話していたら、必ず良くない方に向いていく。

「幸せになって。ごめんね・・私はそれしか言えない」

「はい、ご迷惑かけてすいませんでした」

「ううん、そんなことないよ。じゃあね」

お互い言葉を飲み込んでその場から離れた。
あれでよかったのかな・・。また余計なことをしたのかもしれない。

結局健吾の恋の応援なんて、全くできなかったのかもしれない。