「そっか、よかったね」

作り笑いでそう答えた私に彼女は声のボリュームを抑えて聞いてきた。

「あの・・柚原さんと山中さんは付き合っていたんですか?」

上目遣いで私を見る彼女は、女の私から見てもやっぱり可愛い。
この質問は心が痛いけど、ちゃんと誤解を解いておかないといけないよね。

「私と健吾が?ううん、付き合ってなんかいないよ」

首を横に振りながら精一杯の笑顔・・苦笑いで答える。

「あの時健吾は伊東さんのこと守ろうとして、彼氏に頭下げて謝って誤解を解こうとしたでしょう。私はあの場を取り繕っただけ。友達だから健吾を手伝っただけだよ。あんなやり方だけどね・・ああでもしないと彼氏信じないでしょ」

「・・・」

言葉を飲み込み気まずそうに表情を曇らせる伊東さんを見ると、心に波が立った。

「伊東さんはあれでよかったの?彼氏に信じてもらえば、それでいいの?」

「えっ?」

私の言葉に戸惑いを見せた。

「伊東さんにとって大切な人はやっぱり彼氏だった?健吾は優しくて相談にのってくれるただの先輩?失って悲しい存在は誰?」

「・・・・・」

私の質問に伊東さんは少し驚いた顔をしている。本当は私が立ち入ってはいけないことだけど、いつもなら飲み込んでいた言葉が今は躊躇せず出てしまう。
誰の気持ちを優先したらいいのかは分からない。でも無意識に守ってしまう想いがある。

「健吾は誰にでも優しいわけじゃないよ」

「え・・」

「誰にでもじゃない。頭下げて守ってあげたいと思うのは誰にでもできることじゃない。伊東さんにも分かるでしょ・・そういう気持ち」

きつい言葉を言っているつもりはないけど、視線は伊東さんを強く見つめてしまう。
伊東さんも返事はないけど、視線を外さず合わせてくる。