「柚原も大丈夫?」

「うん、ありがとう」

澤田くんが小さな声で聞いてくれる。

「咲季先輩も澤田くんも本当にごめんなさい。いつも相談にのってくれたり心配させたりしていたのに」

私の言葉に少し間を置いて咲季先輩が問いかけた。

「楓・・これで終わりにしちゃうの?自分の気持ち消しちゃっていいの?」

「うん・・・分からなくて。ず~と嘘ばかり重ねて健吾と接して自分で首絞めすぎて、どうしたらいいか分からなくなっちゃったんです。それで今の状況も作っちゃって。これでいいんだって思う反面、後悔に潰されそうになったり。今は顔を合わせるのも恐いです」

これが今の気持ちの全て。2人にだから話せること。

「そっか・・いつも近くにいるものね。それはそれで辛いよね」

「はい。だから嫌な態度ばかり取っちゃいます」

私がしんみり答えると澤田くんが、

「たまにはいいんじゃない?柚原が今までたくさん泣いた分、健吾のこと少し困らせてあげれば」

しんみりした咲季先輩と私とは対照的に、軽くウインクするように澤田くんは助言する。
澤田くんが言うと悪いことじゃないように感じてしまう。

「ほんとに~?」

咲季先輩は眉間にしわを寄せながら軽く澤田くんを睨む。

「それ位しないとね」

そう言いながら微笑んだ。

「しかし、伊東さんは何だかなぁ~。結局彼氏を手放したくないわけでしょ、引っ掻き回すだけ引っ掻き回して迷惑な奴」

そんな言葉に私は苦笑いしか出なかった。

「山中くんもさ、何で何も言わないで彼氏に謝ったのかね。分かんないな~」

ワインを飲みながらつぶやく咲季先輩に、

「私も・・分からないです」

私がそう答えると、

「ね~澤田くんは?友人の行動・気持ち分かんないの?」

今度は澤田くんに視線を送り、絡むように聞いた。そんな咲季先輩に視線を合わせながら、

「う~ん何も考えてないことないだろうけど、女心が複雑な様に男の心も複雑なのかもしれませんね」

なんて言葉で返していた。咲季先輩は納得いかない様で、

「何よ!どっちの味方しているのよ!」と怒ると、「もちろん柚原の味方です」と笑顔でさらりと言った。
まるでさっきのしんみりした雰囲気はなく、私はそんな様子を笑顔で見ていられた。