「あっすいません。大丈夫です」

私が首を振って遠慮すると、そのハンカチで優しく頬をおさえてくれた。

「ばか、遠慮しないの。ねっ?使って」

そう言ってハンカチを手渡してくれる咲季先輩を見ると、その瞳に涙を浮かべていた。

「咲季先輩・・・」

涙を浮かべながら微笑んでいる咲季先輩を見てまた涙が溢れてしまう。

「ばかだなぁ~。あんなに好きな気持ち隠してそばにいたのに。自分の気持ち飲み込んで飲み込んで山中くんの恋応援してきたのに。気持ちぶつけてスッキリすればいいのに、山中くん傷つけたって後悔しちゃうなんてさ。お人よし・・」

言いながら咲季先輩が瞳に溜めていた涙をポロポロ流した。
その言葉が胸に響く。今手渡してくれた花柄のハンカチを咲季先輩に返そうとすると、

「大丈夫、楓が使って」

と微笑んでくれた。涙を流した笑顔なのに、すごく綺麗に感じた。

「でも・・」

私が言いかけた時、澤田くんが会話に混ざってきた。

「柚原、せっかくだから使わせてもらえば?今井さんはこれ使って下さい」

そう言いながら立ち上がって自分のスーツから濃紺のハンカチを取り出し、咲季先輩の横に立って手のひらにそっと乗せて自分の席に戻った。

「何よ・・もう」

咲季先輩が少し照れた言い方をすると、

「じゃあ、今度は僕が涙をふいてあげましょうか?」

まるで冗談を言うように微笑みながら少し首を傾けた。

「自分でふけるわよ!」

少しむくれながら渡されたハンカチで頬を強く擦る咲季先輩を見たら、涙を流していたのに不思議と笑えてさっきより気持ちが少し落ち着いた。
澤田くんもこうゆう時さり気なく優しいんだよね。
今3人でいられることを幸せに感じられた。