「あんなこと言ったら終りじゃない。あそこまできたら言えばよかったのに。伊東さんが好きだって言えばいいじゃない。バカだよ・・健吾」

「・・ごめんな。お前に嫌な思いさせて」

健吾の優しい声が余計心に刺さる。

愚痴を言うわけでもない、後悔の言葉を言うわけでもない。そして私と付き合っていると嘘をつき、キスまでした私を責めることもしない。最後は私が健吾の恋を壊したのに。

   -ダメだ・・私ー

このままだと健吾の幸せも見届けることもできない。

せめて女友達として健吾のそばにいようと思っていたけど・・それももう辛い。
渦巻く感情を抑えることもできなくなって、全てを投げ出したくなった。

「別に・・嫌な思いなんかしてない。違うの。健吾が思っているのと違うの。本当は健吾の応援なんか・・してないもん」

「ん?」

首を少し傾けて私を見る健吾は、突然の言葉を理解していない。
健吾の顔を見ながらやっとの思いで出る言葉はつぶやくようなわずかな声量。

「今までずっと健吾の相談にのっていたけど、全部嘘。ぜ~んぶ・・嘘」

「何・・どうした?楓」

眉間にしわを寄せて、じっと視線を合わせてくる。
でもここで折れるわけにいかない。

「健吾に幸せになってって言ってきたのが、全部嘘ってこと。辛い時に頑張れって言ったことも、いいことがあった時一緒に喜んでよかったねって言ったのも・・嘘。そんなこと本当は思ってないの。思ってないのに嘘ばっかり並べてきたの」

「・・・」

「健吾の幸せなんか願ってない。友達だって接しながら相談にのって言ってきたことも全部嘘。本当は振られた健吾見て、悩んでる健吾見て呆れてた。ばかみたいってずっと思ってた。だからさっきもはっきりしない健吾を見て、もう面倒くさいって思っただけ。うまくいばいいなんて、思ったことないよ」

「何言ってんだよ」

健吾が困惑しているのを感じる。

そこまで言うのが精一杯だった。ひどい言葉をぶつけ続ける私の目を見て、

「そんな風に思っていたのかよ」

つぶやくように言った。

「・・・うん、ごめん。でももう限界だから」

それ以上は涙がこぼれそうで言えなくて、踵を返してその場を去った。

急いで歩いて、今度こそその場から少しでも離れるように。
早足で歩く歩調に揺れながら、いつの間にか涙が落ちてきた。

健吾にバカって言ったけど、バカなのは私だ。

全部自分のせいなのに、あんな風にしか終わりにできない。
ずっと嘘をついてきて、健吾を傷つける嘘でしか終わりにできなかった。
結局独りよがりに悩んで、こんな終わり・・・
友達でいることすらできなかった。

私の長い片思いは、自分のつまらない嘘と身勝手な言葉で全てを壊してしまった。