スマートフォンを耳にあて、うつむきながら瞳を閉じる。

これからどうするのか、どうしたいのか本当はまだ迷っている。
伊東さんと彼と健吾のもめ事は私には関係ないと怒りを感じても、こうして健吾に連絡してしまっている時点で自ら入り込んでしまっているんだ。
コール音が途切れて健吾の声が聞こえた瞬間、瞳を開けて目の前にいる伊東さんと視線を合わせた。

「もしもし?」

この状況を知らない健吾は、のんきな声を出している。
視線を泳がせながら健吾の顔を想像する。

「もしもし・・健吾今どこ?」

「ん?もう会社戻ってるよ?何で?」

『何で?』って、まあ今の状態は想像できないだろうけどね・・・
視線を合わせなくても、伊東さんがこっちをジッと見ていることを痛いほど感じる。
そう今、伝えなければいけない。

「健吾、今から外出られる?」

「どうした?」

何も知らない健吾にまどろこしい言い方で伝える余裕はない。

「健吾に話があって待ってるの、伊東さんと・・彼氏がね」

「えっ?」

小さな声だけど驚いている様子が感じられる。
【伊東さんと彼氏・話がある】と伝えればどんな内容か察知できるだろう。

「とりあえず出られるようならすぐ出てきて。場所決めたらメールするから。私も同席して欲しいって伊東さんが言うからさ、このまま先に行ってるね。部長には直帰するって伝えてもらえるかな」

「・・わかった」

「じゃあ・・またメールするから」

淡々と用件を伝えて電話を切った。本当は思いっきりため息をつきたい。
言葉は淡々としていても、心はかなり動揺している。
だからもう一度瞳を閉じて一瞬だけ無になる。

行かなければいけない・・・そう決心して目を開けて伊東さんの彼氏の前まで歩く。

「健吾これから来ると思います。とりあえず場所決めて先に行きましょう」

「・・はい」

私の言葉に伊東さんの彼はほとんど表情なく頷いて答えた。
確かに全く関係無い私が仕切っているのだから、反応も困るだろう。
私だって自分の行動に驚いてしまう。私らしくないけど、こうして行動を共にしてしまうのは傍観しようとしてるのか、健吾を守ろうとしているのか。

今は何も考えず健吾を待とう。

とりあえずどんな話し合いになるのか分からないのであまり人のいない所・・と考えて、伊東さんと彼氏に伝え許可を取り3人で向かいながら健吾にメールした。