「この前、山中さんと食事したんですけど・・・一緒にいるところを彼の友達が見ていたらしくて。あの美好ってお店です・・柚原さんも行きつけのお店ですよね。山中さんからいいお店だってよく聞いていたので、連れて行ってもらったんです。今度友達と行きたくて、どんなお店なのかなって思ったので」

「あ~・・この前のね」

嫌な話題が出た。またあの時の気持ちが襲ってくる。
あの時のことが彼にばれて、もめているわけだ。

「はい・・そうです。柚原さん山中さんから聞いてましたか?」

「うん、私も誘ってもらったけど行けなくて電話したからね」

そう、行けないって嘘ついたことよく覚えている。
悲しさも、苦しさも。私の大切な場所だから。

「お願いです!そのこと彼に話して貰えませんか?」

「え・・・」

何で私がそんなこと話さなきゃいけないの?あなたの彼氏に。
あの日のことは思い出すのも嫌なのに。
あなたと健吾のことを、何で私が弁解しなければいけないの?彼氏の気持ちなら私は理解できるよ。
自分の恋人が、2人きりで食事に行っていたと知ったらどんな気持ちになるのか。
伊東さんだって彼氏以外の異性と2人きりで会うことのリスクは承知してのことじゃないの?

そんな渦巻いた黒い気持ちが、きつい提案を差し出してしまった。

「それは健吾の口から聞いたほうがいいんじゃない?彼氏にとっては」

私の言葉を聞いて、伊東さんは『えっ?』と驚いた顔をした。