「奥さんいるって分かっているのに、諦められなくて。好きって気持ちを通していたんだ」

「今も?」

「ううん、別れた。幸せには・・なれないから」

「そうですか」

「嫌な奴でしょ、私」

「いいえ」

笑もなくそう答える。聞きたいと言った割には、澤田くんはグイグイと聞いてこない。
あっさりした言葉を返してくるけど、呆れた感じも冷たい感じもない。
私も無理やり諦めた気持ちだから、あまり言葉に出して言えない。

でも、自分の中ではちゃんと気持ちの整理はした恋だった。

「私の恋愛と楓の想いを一緒にしたらいけないけど、彼女の気持ちの葛藤は痛いくらい分かるから、つい自分のことのように楓の気持ちがガツンときてしまうんだよね。だからこっちが涙出そうになるんだ、澤田くんにも危うく見られるとこだったけどね」

私も何度も泣いたから。

誰にも涙を見せず、恋していることも知られないように。
幸せを感じるよりも、ため息をつく日々の方が多かったから。

「それくらい想っていたんですね」

「うん・・そうだね」

私の気持ちを悟られたみたいで、何だか複雑な気持ちになる。変な感じ。
少しぬるくなったコーヒーを一口飲んで、カップに唇をつけたままコーヒーに視線を落とす。