「どうしました?」

心乱した私の様子を感じ取ったらしく、澤田くんは顔を近づけて覗いてくる。
こんな顔、見られたくない。

「何でもない!見ないで」

「何でもない顔してないですよ。今にも涙がこぼれそうな顔見たら、知らん顔はできませんよ」

低くて優しい声が耳に響く。

「・・・・・」

「そんなに悲しくなるほど柚原のこと気になりますか?」

「うん・・そうなんだけど、何か楓の山中くんを想う悲しい気持ちと自分の恋愛が変に重なっちゃって、ちょっと感情が乱れちゃっただけなの。ごめんね」

そう、楓の気持ちが分かり過ぎる位自分も辛い恋をした。
私の場合は身勝手な想いだったけど・・
何度も諦めようとして、諦められなかった恋だった。

「今井さん彼氏いるんですか?」

「いないわよ。そんないいもんじゃないから」

私が言い切ると、澤田くんは真っ直ぐ視線を合わせてきた。
口元の笑もなく。

「恋愛なのに、彼氏じゃない?」

「何?聞きたい?」

「聞かせてくれますか?」

私の目を見て少し間を置き、いつものように口元に笑みを浮かべて答えてきた。
話の流れ上、つい自分のつまらない話をしてしまった。
話すべきではないかもしれないけど・・まあいいか。

「じゃあ、もう一杯コーヒー淹れて」

「いいですよ」

クスクスと笑いながら自分と私のカップを持って席を立った澤田くんの後ろ姿を見送った。