「今日ね、楓またあの同級生に誘われて出かけたの」

「ふ~ん、そうですか」

楓が男に会いに行ったと伝えても、相変わらずポーカーフェースだ。

「昔振った相手でも再会するとそんなに誘ったりするものなのかな。久しぶりに会って楓のこと気になるのかな~?」

「そんなこと考えていたんですか?」

クスッっと笑いながら澤田くんはこっちを見る。
楓のこと好きなくせに、何でそんなに余裕あるのかな・・

「うん・・だってさ、流れが変わってきているじゃない。それに最近楓元気ないしさ。時々山中くんのこと諦めるような言葉を言ったりさ。やっぱりそんなに苦しいのかなって思ってさ」

私が言うと、澤田くんは少し何かを考えているように視線がずれたけど、すぐにこっちに視線を戻してきた。

「う~ん、実はこの前ちょっとあったみたいで、ここで泣いてました」

楓がここで泣いてた?

全く知らなかったことに驚き、つい澤田くんにくってかかるように近づいてしまった。

「何で!何があったの?泣くほどの事って何?」

「今井さん、落ち着いて」

つい質問攻めにしてしまう私をなだめるように、澤田くんが苦笑しながらささやく。

「だって・・楓が泣くなんて。辛くても笑顔で大丈夫って言う子だもん、よっぽど悲しかったってことでしょ」

「そうですね。まあ、お願いされたみたいだけど健吾が伊東さんを美好に連れて行ったみたいで。柚原も健吾に誘われていたみたいだけど、2人が店の中にいる姿を見て逃げてきたって言ってました。それで健吾には仕事で会社に戻るから行けないって伝えたみたいだけど。自分は嘘ばかりついてるって、ここで涙流していました」

「そうだったんだ・・・」

「それから美好は柚原にとって特別な場所だからって言ってました」

「楓が山中くんと通い続けてきたお店だから。確かにあの子にとって大切な特別な場所だよね・・・そっか・・楓辛かったね」

澤田くんに美好でのことを聞いて、楓の気持ちが悲しいくらいに伝わってきた。
楓が美好で2人のことを見て傷ついて声をかけずに店を出て涙ぐんでいた事を想像すると言葉が出なくなった。

でも・・それ以上に違う感情も混ざってしまって、私の心がザワザワしている。