ーお疲れ様。ごめんね、これから会社に戻ってまとめないといけない書類があるから今日は行けない。誘ってくれてありがとう、伊東さんによろしくー

また・・嘘をつく。

まとめなきゃいけない書類なんて今日はないけど、全て嘘にできなくてとりあえず会社に向かおう。
今日の日報を書いて・・それから残業しよっか・・明日やる予定の見積書仕上げようかな・・

歩いているとメールの着信音が鳴った。
健吾からだろう。分かっているから無視してそのまま歩き続けた。

寒い・・体全部が寒い。さっきもこんなに寒かったかな。
冷たい空気に包まれて、やっと会社に着いた。
エレベーターに乗り営業部のある階のボタンを押して壁に寄りかかる。
チン!っと到着を知らせる音を聞き、エレベーターから降りて営業部に向かう。

部屋の中を見ると誰もいない。
珍しく残業している人いないんだ・・・でもよかった。
カツカツとヒールを鳴らして自分のデスクの前に立ち荷物を置く。

置いた荷物をボーと見ていると、また美好での2人の姿を思い出した。

心が震えてくる、唇が震えて指先も震える。

目を閉じた時、知っている声で私の名前を呼んだ声が聞こえた。