ーお疲れ様。伊東さんが友達との飲み会で店を探していて、美好に行ってみたいって言うからこれから行こうと思って。楓も来ないか?待ってるからー

「うそ・・何で・・」

伊東さんと・・・美好に?・・何で?お店なんて他にたくさんあるのに・・・

健吾からのメールを見つめたまま足が止まった・・止まったまま動けない・・
        

ー美好はだめだよ・・・ー


そう頭に浮かぶと、足は美好の方に向かっていた。
表情が動かなくて、ただ前だけ見て歩いた。
もう冷たい風を感じることはなかった。そんなことに思考が回らなくて、今頭の中に浮かぶのは健吾と伊東さんの顔だった。

帰るはずだった会社を通り越して、2人のいる美好の前に着いた。
目の前のドアの前ののれんを見つめながら、まだ何も考えられずにいる。
でもずっとこうしているわけにいかない。

のれんを避けてドアを少しだけ開けてみる。

おばちゃんは奥のお客さんの接客をしていて気づかれてない。

その横のいつもの席に座っているのは・・健吾と伊東さん。

2人の姿を見つけた瞬間、心が大きな衝撃を感じ苦しくなった。

そのまま目が離せず体がどんどん冷えていく。

伊東さんは後ろ姿で健吾はこっち向きだけど、全く気が付く様子はない。
2人は楽しそうに話していて、常連だったのはあの2人のように感じる・・・
そのまま見ていると、接客の終わったおばちゃんがこっちに歩いて来て、ドアから見ている私に気が付いた。
その瞬間私は首を振る、おばちゃんが声を出して2人に気付かれないように。

ドアを閉めて歩き出すと、すぐにおばちゃんがお店から出てきた。