「こんばんは~」

のれんをくぐり、ドアを開けるとおばちゃんが笑顔で迎えてくれた。
あ~いつも通りほっとする。

「楓ちゃんいらっしゃい。寒かったでしょう~。健吾くんはとっくに来て、もう潰れっちゃっているわよ」

「え?」

健吾から美好に来ているなんて連絡なかった。

驚いて奥の席を見ると健吾がテーブルに両腕を乗せ、その上に顔を伏せるように寝ている姿が見えた。
健吾今日は美好に行くなんて言っていなかったけどな・・そう思いながら健吾のいる席まで行って向かいの席に座る。

「健吾、健吾」

呼んでみても、揺すってみても起きない。
まあ、いいかってとりあえず寝かせたままにして、おばちゃんに焼酎のお湯割りと、もう遅い時間の夕食なので五目雑炊だけ頼んだ。

「はい、お待たせ」

おばちゃんが運んでくれたので、まずお湯割りを1口飲む。

「おばちゃん、健吾飲みすぎて寝ちゃった?」

「そうだね、今日は飲んでいたね。あまり食べずにボーっとしながら飲んでいたよ。何かあったのかい?」

おばちゃんは寝ている健吾を見ながらふんわり笑う。

「う~ん、よくわからないんだ」

「そっか、困ったね。何か携帯は何度も見ていたみたいだけどね」

「そっか・・・」

やっぱり伊東さんと何かあったのかな・・・いつもなら愚痴や悩み聞いて欲しくて飲みに誘ってくるのにな、一人で飲むほど悩んでいるのかな。

今まで伊東さんのことで悩んだりしても、あんなに無口になるようなことなかったのに。

おばちゃんが五目雑炊を運んでくれて、健吾の寝顔をボーと見ながら雑炊を食べる。
空いた黒糖焼酎のグラスをテーブルの端に置いた時、後ろの席のテーブルの上を片付けていたおばちゃんが声をかけてきた。