「はい、遠いからいいって言ったのに、わざわざ来てくれて」

「そうなの?」

「それで、その時英輔の姿見たらしくて昔仲良かった友達って話したんです」

「昔好きだったってことも?」

咲季先輩がそのへんも鋭く聞いてくる。

「はい、好きだったけど振られたってことも話しましたよ」

「そっか・・・その友達のことは知っていたんだ。ふ~んそれで、あいつ?って・・・」

咲季先輩が聞こえない位小さな声で言ったので、よく聞き取れない。

「何ですか?」

「ううん、何でもない。とりあえず今回のことはごめんね。でもさ私は、山中くんは楓が感じるより楓に愛情持っていると思うな」

突然咲季先輩にそんなこと言われて戸惑う。

そんなことあるわけないのに。
健吾が私に感じるのは愛情ではなくて友情で、きっと兄弟的なものなのかもしれない。その上でいろいろ心配してくれたりしているのかなってこの頃思う。

「またそういうこと言って。それはないですよ・・愛情は全て伊東さんに向いていますから」

「楓、あんたが感じていないものがきっとあるから、諦めないでちゃんと山中くんと話してみなよ」

咲季先輩が言っていることはすごく大切なのかもしれないけど、それが私にはできない。

伊東さんを想う健吾の嬉しい顔も、落ち込んでいる顔も見てきてしまったから・・それって時間が経ち過ぎたからかな?
『はい』とも『いいえ』とも言えず、曖昧に笑ってしまう私に困った顔して咲季先輩は微笑んだ。

そして営業部のフロアに戻り、私はためてしまった書類を仕上げる為に残業して帰った。
終わる頃には22時を過ぎてしまい、遅いとは思ったけど明日は休みなので美好でご飯を食べて行くことにした。