「おはよ!」



颯太の声がして振り向く




『…おはよ』


どこからともなく自然と握られた手




「あのさ、胡桃なんか忘れてない?」


歩き始めてすぐ言われる言葉に、ん?と首を曲げた


"記念日"そんな事、言われる気がして――…

わざと知らなそうなフリをした






「俺、今日卒業式なんだけど」




『――え』





卒業式…、か




「胡桃のとこも今日?」


『いや、来週、だよ』




記念日、なんてわざわざ祝うもんじゃないよね…



付き合った日を覚えていた自分に嫌気がさした




「ふーん…まあ、いいんだけど!」


『うん』








「胡桃」



『ん?』





グイッと腕を引っ張られて、抱きしめられた




『な、なにっ』



「大好きだよ」





『…え』






「1か月記念日。これからも胡桃を愛し続けます」


そんな言葉と共に指につけられた指輪





『――ッ』



その指輪はぴったりで

驚いた





「いつも放課後…俺、すぐバイト行っててさ


胡桃と会わない日もほとんどバイト行ってて…」



『…、』




だからか



すぐに帰ってしまっていたのは





「バイト中も携帯は持ち歩いてたから返事はできてたけど、中々いじれない時もあって、そうゆう時胡桃を不安にさせてたら…なんて考えちゃって、早くこの事伝えたくてウズウズしてた」



『…颯太』



「俺、恋人とか今までいなくて…どうやってもっと好きになってもらえるかな、とか色々考えちゃって、本当に好きで、胡桃の事本当に好きで…」



どうして、泣きそうなの



「誰にもあげたくないって思った。そばにいたいって思った。ずっと一緒にいたいって思った。胡桃の匂い、声、髪の毛一本ですら誰にもあげたくないと思った。」



『…ッ』



颯太…私…



『好き…』

かも…





貴方の事――…




付き合い始めたあの頃は些細なことでさえ、可笑しいな、なんて思ったのに


毎日連絡を強要されていた今


この言葉は私にとって、愛でしかないと思った




誰とも連絡がない今、繋がっているのは颯太だけで


颯太しかいないと思った





いつの間にか私は、少し、可笑しくなっていた








「胡桃ちゃんを今夜、俺に下さい」



そんな言葉に、私は





『はい』


と答えた