クロネは赤毛が特徴的な女の子だった。
魔法都市眠りドラゴン城から東の山村で生まれ育ったという。
その地方は寒さが厳しく、男達は屈強で、女も皆気性が激しい事で有名だった。
クロネ
「私は7才あんたは?」
セブン
「五才、クロネはどんな魔法使えるの?」
クロネ
「私は1つだけ、でも威力がなくって、あんたは?」
セブン
「2つあるけど1つはとっておきさ、あとこんなのも出来るよ」
セブンはピエロンを出した。
クロネ
「可愛いー、なにそれ?」
セブン
「ピエロン、僕の友達」
クロネ
「私にも貸して」
セブン
「嫌だ」
クロネ
「貸しなさいよ」
セブン
「い、や、だ」
クロネ
「じゃあ、これとちょっと交換」
クロネは鞄からキラキラしたコマを出した。
魔法の力が宿ったコマは回すと光を発した。
セブン
「ちょっとだけね」
クロネ
「んんー?どうやって動かしたのよ?」
セブン
「練習しないとなー」
クロネは一生懸命やったが、尻尾がピョコピョコ動くだけだった。
クロネ
「ハーハー、これじゃ判断試験の前に魔力使い切っちゃうわ」
セブン
「まだまだだなーウルブスもやってみてよ」
クロネ
「ウルブス『さん』でしょ!」
ウルブス
「呼び捨てで構いませんよ別に、
ふむ、しかしこれは難しいですな」
三人は昼まで待合室でお喋りし、昼食をとっていた。
そこに副校長のクラッシュが入ってきた。
クラッシュ
「ウルブス殿、あと一時間後に脱力の試練の間へ」
ウルブス
「かしこまりました」
クロネ
「今年は二人だけ?」
クラッシュ
「免除者が後三名、もう会場に向かって貰ってるんだ」
クロネ
「じゃあ今年は自覚者だけか」
セブン
「試練か楽しみだな~」
街の一般居住区に囲まれるように魔法使い達の城や居住区はあった。
その居住区の中央広場に今期から魔法使いの見習いとして移住する五人が集めれていた。
クラッシュ
「私は諸君がこれから学ぶ学園の副校長であるクラッシュという者だ。
まずは今から君達がどれだけの力を持っているのかを見せて貰う、では誰から行くかな?」
クロネ
「はいっ一番はいっ!」
クロネは集中し手のひらに小さな炎の玉を浮かせ、それを放り投げると地面に燃え広がった。
クラッシュ
「ふむ、では次」
残り三人は中々の魔法を見せた。
中でも長髪の少年は竜巻を起こした後でクロネに向かって言った。
長髪の少年
「これが血筋だ田舎もん、お前は何が出来る?チビ」
セブンは今までにこれだけ嫌みを込めてチビと言われたのは二回目だった。
一度目は前歯をへし折ったカトルである。
少し苛ついたがクラッシュに呼ばれ、みんなの前に出た。
クラッシュ
「セブンが一番年下の5つでみんなは七つだろ?
からかうんじゃない!」
セブン
「ありがとう、クラッシュ先生」
長髪の少年
「ありがとう、クラッシュ先生」
真似をされたセブンはかなり頭にきだしていた。
それでもセブンは気を取り直して、ごく自然体で踊る炎を出した。
クロネ
「凄い!」
クロネとクラッシュは驚いたが、他の子供は違った。
特に長髪の少年は…
長髪の少年
「何だこれ?魔法もチビだな?」
ゲラゲラ笑う長髪の少年にセブンは一気に走って近寄り、髪を掴み殴りかかった。
さらにポケットから銀色のナイフを取りだし柄で顔を殴った。
クラッシュの魔法でナイフは手を離れ空を舞ったが、セブンもナイフワルツを唱え、それを取り返した。
クラッシュは驚いたが取り乱さず叫ぶ。
クラッシュ
「やめろ!セブン」
セブン
「今度クロネと僕を笑ったら決闘だ」
クラッシュ
「まあ待て、ナイフで刺すつもりだったのか?」
鋭いクラッシュの眼差しにセブンは冷静に戻った。
セブン
「前歯を折ってやろうと思って」
クラッシュ
「意外と凶暴な性格だな、ピエロの影響か?」
クロネ
「結構カッコいいじゃん」
長髪の少年は狼狽し、悔しそうに頬をおさえていた。
騒動はあったが、魔法医療班が直ぐに長髪の少年の傷を治し事なきを得た。
長髪の少年
「くそ、覚えてろよ、俺は貴族だぞ!」
クラッシュ
「ここでは身分は関係ない!
全く、後で二人とも説教するからな!」
セブン
「僕は悪くないのに」
クロネ
「かっこよかったわよセブン」
クラッシュ
「全く、取り敢えず脱力の洗礼を受けて貰う。
気持ちを切り替えるんだ」
クロネが呼ばれ、石碑の前に立たされた。
クラッシュ
「今からこの石碑に向かい魔力を送れ、
魔力の量と質によって石碑中央にある石が変化する。
では初め!」
クロネが魔力の光を石碑にあてだすと中央の石が黄色から青へ、青から緑に変化した。
クラッシュ
「ほう、珍しいな」
クロネは魔力を出しきると膝に手を付き肩で息をした。
クラッシュ
「よくやった中々質の良い魔力だ。
今見て貰った通り、魔力を使いきるとかなり疲れるからな。
だが今後の教育方針の為に全力を出せよ、次!」
他の二人は黄色止まりで、あの長髪の少年は青までいったが、悔しそうだった。
ヘトヘトになった皆が見守る中、セブンは見よう見まねで順調に魔力を流していったが、途中で地響きがなった。
すると急にセブンの体から大量の魔力が吸いとられるように石碑に送られ始める。
クラッシュ
「不味いぞ、セブン離れろ!」
何が起きたのか分からずセブンは立ち尽くし、クラッシュが走り出した。
セブンは気が遠くなり座り込んでしまい、
それでも魔力は吸い込まれ続け、クラッシュが駆けつけた時には石碑は赤から黒に染まっていた。
クラッシュ
「医療班!」
セブンは気を失ったまま担架に乗せられ運ばれていった。
騒動に気づいた遠巻きの教師達も駆け寄ってきていた。
教師
「信じられん、質と量は魔導師クラスか?」
クラッシュ
「持っていた以上に引き出されたんだ。
実際は魔術師クラスでしょうね」
教師
「初めの魔法もあれは無詠唱だったろ?」
クラッシュ
「しかも近くで見ていたが操ってなかった、
自我を持たせてたようだ」
教師
「それは禁術じゃろ?」
クラッシュ
「ナイフも途中で奪われたよ、私がやったわけじゃないんだ。
正直、驚いたよ」
教師
「鋼を操れるのは土魔法専門の上級者でも一部だけだろ?」
クラッシュ
「あの道化め、何も言わずに置いていきやがって」
教師
「規格外だな?」
クラッシュ
「性格といい可愛いモンスターだよ全く」
不思議な石碑に魔力を吸い上げられ、
気を失ったセブンはすぐさま医療室に運ばれ魔力の供給を受けていた。
魔法を使える者はその不思議な力の燃料となる魔力を使いきると怠惰感に襲われ、
全力で走りきった後に似た状態となる。
それを越えれば歯が震える程の寒気、視界の不調、意識の低下が起こった。
稀に自分の持っている以上の力を意図的に引き出す事の出来る者がいたが、
往々にして気を失ってしまう。
セブンが目を覚ますと、寝かされていたベットの横に世話係のウルブスが立っていた。
ウルブス
「おっ目覚められましたな?
医療班の三人分の魔力授与を軽く取り込みましたな、ご立派です」
セブン
「何だか疲れたよ」
ウルブス
「まだ魔力が足りませんかね?」
医療班は首を横に降った。
もう勘弁して欲しいらしい。
セブン
「どうなったの?
何だか魂が抜かれそうになったよ」
ウルブス
「ええ、見ていましたとも、
初めて魔力送りを行ったのだからうまくいかったのでしょう」
セブン
「失敗しちゃったか、へへ」
ウルブス
「まあ命には別状はありませんし、
クラッシュどのが目を覚ましたら部屋まで来るように、との事ですが。
もう少しお休みになられます?」
セブン
「怒られるかな?」
ウルブス
「どうでしょうね、まあ嫌な事は先に済ませておくべきだとは思いますがね?」
セブン
「分かった行くよ」
ウルブス
「ご案内い致します」
目が覚めたセブンは体のだるさを引きずりながら副校長であるウルブスの部屋に向かった。
医療室から出たそこは見たことも無いほどの装飾がなされていた。
セブン
「凄い建物だね?」
地面には赤く薄い絨毯が敷かれ、
大きな白の柱が建物を突き抜けて支えていた。
壁には様々な道具や植物が飾られ、天井からは無数のランプが吊るされている。
螺旋階段がいくつも掛けられておりそれを登って二人は最上階を目指した。
ウルブス
「ここが眠りドラゴン城の中枢、世の真なる理を探求する魔法使い達の庭園、真理の庭園区域と呼ばれています。
その中でもこれから貴方がた幼き魔法使い見習が学習する学舎。
『無知なる者の止まり木』の玄関ホールです」
セブン
「すっごく儲かってるんだね」
ウルブス
「ええ、まあ、簡単に言えば」
魔法使いの国における責務は重大であり、それを育てる為の予算は確かに潤っていた。
こんな綺麗な場所で暮らすのかとセブンは少し嬉しく思った。
最上階、クラッシュの名札が付いた重々しいドアをウルブスが叩いた。
ウルブス
「セブン殿をお連れ致しました」
「入ってください」
ウルブスに連れられ、嫌々セブンが部屋に入ると椅子が2つ並べられ、片方には見た顔があった。
セブンが殴りかかった長髪の少年だった。
クラッシュに散々叱られたのであろうか目を細めムスッとした顔立ちである。
ウルブス
「私は外で待っております」
クラッシュ
「いや、いてください。
セブン、座りなさい」
セブンは長髪の少年を睨みながら空いている椅子に座った。
クラッシュ
「セブン、もう許してやれ、だいぶ懲りたみたいだぞ?
カトリ謝りなさい」
セブンは名前まで嫌いな出っ歯のカトルにそっくりだと思った。
カトリ
「からかって悪かったな」
クラッシュ
「セブンもいくらクロネや自分を馬鹿にされたからって、少しやり過ぎただろう?
凄い魔法を覚えて見返せば良かったんだ。
ましてや簡単に人の前歯を折っちゃいけないんだ分かるか?」
セブンはポケットから以前折った前歯を出して見せた。
それを見たカトリはギョッとした。
セブン
「兄弟やおじいちゃんは誉めてくれたけど」
カトリ
「家族に問題があるんだな」
セブンはマッチの如く一気に燃え上がり椅子を飛ばした。
カトリを殴ろうとしたが、ウルブスが老人とは思えないスピードでそれを制した。
セブン
「家族を馬鹿にしたな?決闘だ!」
クラッシュ
「今のは認めよう!
家族を馬鹿にされては黙ってはいられんだろうからな!
カトリ!
全く懲りていないようだな、決闘を受けろ!
勝っても、負けても厳罰を与えるからな!」
カトリ
「くそったれ!
チビ!ほえずらかかせてやるぜ」
もうセブンは怒りに我を失いかけていた。
クラッシュに連れてこられたのは城の外にある闘技場であった。
魔法使いが自分のレベルに合わせた相手と戦い訓練する場所でもある。
魔法使い同士の決闘では通常の魔法は一切禁止される。
戦いに使う魔法の多くは対象者を即死に追いやるからであった。
その為、力比べの場合はあるものが使われる。
セブンとカトリは一対のグローブを渡された。
クラッシュ
「魔力をある痛みの魔法に変換し、魔法球を作り出すものだ。
このグローブに魔力を注げば簡単に飛ばせる事が出来る。
魔力によって威力が代わるが、死ぬことは無い、だが痛いぞ?」
セブンは怒りが収まらない様子でグローブを早々に着けた。
クラッシュはあきれて鼻息を出し魔法を唱えると、
闘技場の地面が隆起し、腰の高さまでの土のバリケードがいくつも現れた。
クラッシュ
「二人とも開始位置に立て始めるぞ!礼をしろ」
セブンはやる気まんまんで身構えた。
カトリは余裕の様子で手を何度かひるがえし、大げさにお辞儀をした。
クラッシュ
「セブン!礼をしろ!」
セブン
「嫌だ!」
クラッシュ
「しなければ戦わせずお前の負けにするぞ!」
セブンは少しだけ頭を傾けた。
クラッシュ
「ウルブス殿、この先大変ですな?
…いくぞ?初め!」
開始と同時に動いたのは怒りの頂点に達したセブンだった。
グローブの手の平を前に両手で次々に魔法の玉を撃ち出していた。
ウルブス
「凄い威力だ」
クラッシュ
「あれはコツが要らんからな、だが魔力が尽きるぞ」
セブンの猛攻にたまらずカトリは後方に逃げた。
それを見てかセブンはカトリに向かって一直線に前進しながら撃ち続ける。
バリケードは粉々になって飛び散り、カトリの反撃の魔法球でさえ弾き飛ばした。
最後のバリケードが砕け、カトリがのたうち回るとセブンは攻撃をやめ走り出した。
クラッシュ
「ん?」
ウルブスは次の瞬間走った。
セブンはカトリに馬乗りになってカトリを殴り初めていた。
クラッシュ
「あいつ見た目よりかなり狂暴だな!
本当に、うはは、しかし強い」
カトリ
「参った。参った!」
セブン
「二度と家族の悪口を言うなよ!」
カトリ
「分かった。許してくれ」
ウルブスがセブンの後ろに立った。
セブンは自慢気にウルブスを見たがウルブスは笑っていなかった。
それどころか厳しく鋭い目をセブンに向けていた。
セブン
「ウルブス?」
ウルブス
「何でも暴力で解決するとは野蛮ですな、
ご家族の教育が悪かったのでしょう。
ご両親も野蛮でしょうな?」
セブン
「違う!友達だろ?
何でそんな酷い事を言うんだ!」
ウルブス
「では決闘ですな?」
ウルブスは返事を聞かず、カトリのグローブを外し自ら着け、
セブンが元いた場所に向かった。
ウルブス
「クラッシュ殿!合図を!」
クラッシュ
「ふむ…分かった。初め!」
セブンは開始の合図と同時に自分が壊わさなかったバリケードに身を潜めた。
さっきまで優しかったウルブスが決闘を仕掛けて来たことが未だに信じられずにいた。
しかしすぐに戦闘に集中する羽目になる。
セブンの背中をウルブスの魔法球が襲う。
それはセブンの攻撃の威力と同等かそれ以上であった。
セブンは衝撃で転げ回り、振り向いたがそこにウルブスの姿は見えない。
走ってバリケードに隠れようとしたが、そのバリケードも吹き飛び、右手を負傷した。
悲鳴にも似た声を上げ、痛みを紛らわし立ち上がると、
次は足元付近に着弾があり、砂煙が視界を奪う。
セブンが走って砂煙を抜けた場所を狙いすましたかの様にいくつも小さな魔法球が連続してセブンを襲った。
いくつもの被弾を受けたセブンは金切り声を上げ、パニックに陥り恐怖に涙を流した。
それを見下ろすのはウルブスはいまだ厳しい表情であった。
ウルブス
「貴方の両親は野蛮では無いでしょう。
ですが、貴方はそれを否定出来る力を持たなかった。
力が真実の証明にはならない事が分かりましたか?
強いという事は悪いことでは無いですが、
強さを誇示する為にもっぱら暴力を振るうのは賢い人間のやる事ではない。
ましてやそれは本当の意味での強さではありません」
セブンは泣きながらウルブスに聞いた。
セブン
「どうすれば、賢く?
どうやったら、強くなれるの?」
ウルブスは手を差し出し、セブンはそれを掴んだ。
ウルブス
「それをこれから学んでいくんですよ、カトリ殿もね?」
カトリ
「はいっ!」
カトリは獰猛なセブンを軽々と手玉に取ったウルブスに恐れを抱いた。
ウルブスは何時もの笑顔に戻っていた。
それを見たセブンは安心して泣きじゃくった。
ウルブスが優しく抱き上げてやると一層に悲しさが込み上げ涙が止まらなかった。
クラッシュ
「衰えを知らんな、元英雄殿は、まさに適任だな、医療班!
医療班?顔色悪いな?
魔力遣いすぎたか?
疲れてるな」
入学式前に二度も医療班の世話になったセブンは医療班泣かせとしてブラックリストに載った。
疲れきった医療班に別れを告げ、セブン、ウルブス、カトリの三人はこれから暮らす宿舎へと向かった。
セブン
「あれ?あの綺麗な所じゃないんだね?」
ウルブス
「無知なる者の止まり木は学舎ですから、
今期の通過者が過ごすのはここですよ」
カトリ
「嘘だろ?ボロボロじゃないか」
ウルブス
「占いで決まるんですよ。
それと歴史あると言って頂きたいですな」
セブン
「何あれ?リス?」
セブンが見ているのは踊っている笑顔の可愛いカピパラの銅像だった。
ウルブス
「あれはカピパラ、ここのシンボルです。
ようこそ多くの有名な魔法使いを産み出した
『笑うカピパラ寮』へ!」
カトリ
「俺は貴族だぞ!
ネーミングセンスの欠片もないこんな汚いと、こ…ろではないですね!」
睨みを効かせたウルブスを見てカトリは態度を変えるしかなかった。
当分カトリはウルブスに逆らえそうにない。
ウルブス
「宜しい」
笑うカピパラ寮は二階建て6部屋、共同キッチン1つ、共同トイレ2つ、共同風呂2つ、地下倉庫があった。
街の一番端にあり、万年緑に囲まれている実は人気の寮だった。
人気の理由はこの一体が静かであるのと、唯一他の寮と違い緑に恵まれている事。
焼いた木材を使った黒い壁、煉瓦の垣根、小さな庭もあり、雰囲気がとてもある建物であった。
クロネ
「けどね、一番の理由はここを出身とする有名な魔法使いが多いってことよ。
私の憧れの水晶山の魔女もこの寮で暮らしたんだって」
先に入っていた赤髪のクロネがテーブルに座り教えてくれた。
ウルブス
「さあ、さあ静かに」
皆はお喋りをやめて口を閉じた。
ウルブス
「宜しい、では自己紹介を、
私は皆さんが無知なる者の止まり木を卒業するまでの間お世話をさせて頂くウルブスと申します。
この寮で生活する上で以下注意点をしっかり守って頂きます」
それは彼等が卒業するまでずっと守り続けた約束であった。