「……アナタが海外に行ってから、ずいぶんいろいろなことがあった。

そして私は、社交的になった。


それだけです。」


お話しすることは、これ以上ありません。

そう言って、また酒を一口飲む。



「いろいろって、なにがあったんだ。」


「いろいろですよ。

お伝えする必要はありません。」


「それは佐藤じゃなくてオレが決める。」


「………そうですか。

しかし私はすべてを話すつもりはありません。

時間の無駄ですから。


しいて話す所があるとするなら……



アナタは先輩でもなんでもない。

ただの部下だ。



あのころとは違うんですよ。

もう引き返すことはできない。



なにも知らなかった、あの頃には──…



知ってしまったら、もう知らなかったころには戻れないんですよ。


……たとえ、戻りたかったとしても、ね。


振り返ってはいけない。

振り返ることは許されない。」



なんのことを言っているのかはサッパリわからない。


ただ、佐藤が苦しんでいるのは分かる。


(なのに佐藤、なぜお前は……)



「なんで、そんな言い方…

まるで、戻りたいみたいな…」


「…そんなこと、ないですよ。

大人はなんでもできる。

どんな事だって…。


私はね、この仕事が好きなんですよ。

人の命を、救うことができる。


でも、同時に大嫌いだ。」


「佐藤…。

好きなことが嫌いって、どういうこと?」


「…アナタには、関係ない。」


「どうして?

俺も医者だ。

しかも今は佐藤の病院で働いてる。

これのどこが関係ないって?」