何となく。
何となくなんだけど、一緒に帰るルールがある。
私が先を歩けば彼がついてきて、彼が先を歩けば私がついていく。
こんなルール、当たり前でもなんでもなくて。
私はそれが壊れるのは、何となく嫌で。
私がこんなに気にしているのに、彼は無自覚に私を溺れさせる。
──ああ、なんでこんなに好きになってしまったんだろう。
今日も、部活終わりにホームで電車を待つ。
別に一人なわけじゃない。
隣には同じ制服を着た男の子がいる。
吉田類(ヨシダルイ)。
私の部活仲間であり、クラスメートでもある。
背も高く、何より声がカッコイイイケボであることから、密かに女子に人気。
そんなイケメン君とは乗り換え先まで一緒で、他の部活仲間たちとは別々になるからよく一緒になる。
女子的には、かなり嬉しいこのシチュエーションだけど、今の私はそれどころじゃない。
何せ、
・喉を傷めて風邪に発展
・女の子の日二日目で貧血なう
→免疫落ちて発熱
という、スリーパンチを受けているから。
電車早く来ないかな~…
ああ~…体に力が入らない。
ちらっと類君のほうを見てみるけど、ボーッと前を眺めているだけで、私の方なんて気にする様子もない。
この人の残念なところ。
女の子に気が使えないところだ。
まあ、私が女の子と認識されているかは定かじゃないけど。
暫くして電車がやっときた。
通勤ラッシュとは無縁といっていいほどひとのいない車内。
席は十分に空いていた。
私も類君も無言で乗り込む。
うーん、座ろうかな。
どうしよう。
考えていると、類君がパッと私のほうをみた。
「な、なに?」
少し期待。
だけど、類君から言われたのは。
「座ってもいい?」
という、なんとも残念な一言だった。
それ、病人にいう言葉ですか!?
私、死にそうなくらい辛いんですけど!?
私はもはや呆れて座る気にもなれず、
「いや、私の許可入らないでしょ。」
と適当に返事をして角の席の壁に寄り掛かった。
きっと、類君なりに気を使ったつもりだったんだろうな。
はあ。
ため息が出た。
───────…
その2日後。
あまりにないと思ったので、同じ部活仲間の花梨に愚痴った。
「…な、なんじゃそりゃーーー!
むむぅ…類君許せん!後で説教だな。」
おおう。予想外なキレ具合。
「い、いや、説教はいい「類君!!」
私の声を無視して類君を呼び出す。
教室の前なので、あまり大きな声は出してほしくないんだけどな、花梨…
というか、花梨が呼び出して私があたふたしてるって、なんか誤解を生むシチュエーションじゃん、これ!
「…なんだよ。」
ほらあ、もう~。
類君花梨の剣幕に怯えてるよ。
目がキョドッている…
「一昨日、月が体調悪かったのに、席譲らなかったんだって!?」
類君を見ると、あ!っていう顔をして、気まずそうに視線をずらした。
え、もしかして分かってて無視してたの?
だったらわりとショック。
「…すんません。」
花梨は、はあ、とため息をつき、
「仕方ない、分かってたみたいだし、今回はこれで許してやろうではないか。」
じゃあ、また後でね~。
花梨はそういうと自分の教室に戻っていった。
か、花梨さーーーん!!
どうすんの?これ……
………残された私と類君の間に気まずい沈黙が降りたのは、言うまでもない。
その日の部活帰りの駅のホーム。
今日はかなり厳しい練習で、皆くたくたになった。
私と類君も同じで。
さっきからずっと無言。
喋ろうという気力さえ起こらない。
…という理由だけではなく。
今日の昼休みのことがあって、話しかけづらいというのもあるから。
考えてみれば、私が勝手に期待して勝手に怒っただけじゃないか。
彼女でもない人にそんなことで怒られた類君の身になれば、迷惑以外のなにものでもないはず。
…嫌われたかな…
そりゃ、面倒な女だと思われるのは当然だろうし。
だんだん暗い気持ちになる。
はあ。
私がため息をついたとき、ちょうど電車が来た。