「え、先輩、買えなかったんですか?」


美菜が、自分の手元と東郷先輩の顔を交互に見て、それから覚悟を決めたように、ぐっと口を引き結んだ。

そして、チョココロネを先輩の前に突き出す。


「先輩、よかったらこれ、どうぞ!」


あたしのチョココロネも、東郷先輩に食べられたいって言ってます!なんて言い出しそうだ。

美菜の勢いに、先輩も目を丸くしている。

けれどすぐに、ふわりとした笑顔に切り替えた。


「ありがとう」

「って駄目だから!美菜、あげなくていから」


あたしは大慌てで美菜の腕を引く。

だって先輩は、別にチョココロネが食べたかったわけじゃないんだし。

しかもあの戦場に繰り出すこともしなかった不戦敗なんだから。

そんな人に食べる資格はない。