「杏奈?」


声と共に頭の上に落ちてくるのは、大きな手のひら。

そして目の前に、愛しい人の顔。


「わっ」


思わず飛び退いた。

鞄を肩から下げた雄平が、小首を傾げてあたしを見ている。

視線を流せば、人のまばらな駅のホーム。

漂うのは、澄んだ朝の空気。

ああ、そうだ、今は登校中で、電車と、雄平を待っているところだった。

ぼーっとしているうちに、雄平の方は到着したらしかった。


「まだ寝てる?」


雄平はおかしそうに笑って、もう一度あたしの頭に手を乗せて、顔を覗き込む。

近い。唇に、目がいってしまう。


「お、おはよう」


苦し紛れに、今更ながらの朝の挨拶。

それに応えて、雄平の唇が動き、言葉を紡ぐ。


「ん。おはよ」


ぐりぐりと頭を撫でて、その手は離れて行った。

急に淋しくなる、頭の上。

それを実感して、自覚する。

あたしはやっぱり、触れていてほしいと思っている。