先輩の表情がいっそう冷たくなった。

何をするかわからないような暗い瞳に、背筋が凍る。

これは、ちょっと危険かもしれない。

先輩の手が、あたしの胸倉を掴んだ。


「東郷君の方が、あんたにつきまとってるって言いたいみたいだな」


口調が、変わった。

ああ、やばいな。逃げ出そうか。

でも、後ろに控えている人数を見ると、それは難しそうだ。

どうしたらいいだろう。


「あれぇ?何してるのぉ?」


場違いに間延びした声が、あたし達全員の動きを止めた。

鈴を転がすような、愛らしい声。

あたしの胸倉を掴んでいる先輩の後ろに、人形のように整った顔立ちが、ひょっこりと覗いた。