「………バッカだなあ、お前!天下の『瀬名広斗』が俺らみたいなのを相手するかよ。」
3年1組…。
教室に戻ってきた私たちの話を聞いて、友人の安堂 力(りき)は……思いきり、笑い飛ばした。
「分かってるよ。分かってるけどさー!」
的を得た指摘に、私はぶうっと頬を膨らませる。
「………受験生のオアシスよ!夢くらい見たって…いいじゃない。」
「アホだなあ、お前は。受験生でない頃から騒いでたじゃんか。」
「げ……。なんで力がそれを…。」
「…………。何でって、そりゃあ……、なあ…?」
急に歯切れの悪くなった力は、モモちゃんの方を見て…言葉を濁す。
「……さあ……、知らないよ、私は。」
モモちゃんは素っ気なくそれをスルーして。
「それにしても……」
話題の変換を…図る。
「個人面談、もうすぐでしょう?どうしようねえ…、進路。」
「「………確かに……。」」
3人揃って、ふうう~…っと深い溜め息をはいた。
「………。コラ、『3太郎』。お前らよく受験生だなんて言葉を使えたもんだなあ……。」
「…………!先生……。」
「安堂力、古山桃子、金築ゆな!……英語の課題テスト……、3人合わせても100点にならないとはどういうことだ?」
「……。どういうこと…でしょうねえ……?」
私たちは、苦虫を噛み潰す思いで。
お互いに…顔を見合わせた。
「恋だ云々語ろうだなんて、浮わついてる場合じゃないだろう?勉強しろ、少しくらい……。」
「それなら、さっき…きんが熱心に英単語の勉強を!」
「ちょ……、モモちゃん!」
モモちゃんの…、トンデモキラーパス!!
「金築が……?今日は槍でも降るかもしれんな。」
「だって、少しでも彼に追いつきたいんだもん、ねー、きん?」
『ああ……なんて余計なことを…!』
「彼って…、瀬名広斗のことか?!」
「………。違います!いや、違わないけど…。どーせ先生も笑いたいんでしょう?」
私のような、3人で一人前な馬鹿が…あんな秀才に恋するだなんて。
「いーや、見直したよ、金築!」
「………は…?」
「志は高く!夢はもったほうがいい!!」
『……チッ…、夢とか言われちゃったし…。』
「単語テストの成績が楽しみだなあ…?3バカ3太郎の解散目前か?古山、安堂、お前らもうかうかしてらんないな、まあ…、頑張れ!」
励まされたのか、馬鹿にされたのか…?
先生は私の肩をポンポンっと叩いて。
さも可笑しそうに笑みを浮かべると……教壇へと向かって歩き去って行った。