「……。降参~、モモちゃん、早く答え。」



無理です、……お手上げ。



そもそも私たちが勉強しようだなんて思った地点で……奇跡なのだ。






「……答え?ええ~と……、……あ!」



友人の、古山桃子こと…モモちゃんは、小さく声を上げて。



私の肩越しを……指差した。




「……きん、後ろ……!」




「……え?」




私が振り返ったその先……、だいぶ離れた所に。




男子生徒が…数名、こちらへと向かって歩いて来ていた。



その中で…


頭一つ飛び抜けている彼と、私との視線が……


バッチリとぶつかる。










「………セナくん…!」







なんで……私を見ているの?








「……モモちゃん……。わたし、さっき彼と会っていた気がする……。」




「………。気のせいだよね、ソレ。」




「ううん。このシチュエーションに、見覚えが…!まさか…、よ、予知夢?」



「………。へえ~、そうかもね。(棒読み)」





ほら、モモちゃんだって否定しない。



じゃあ彼は、これから私の元に……?





「モモちゃん、私は読書の続きを……!」



「………はあ?」




首を傾げるモモちゃんをよそに、私は慌てて英単語カードを拾い上げると…。


ソレに視線を落として…パラパラと、めくっていく。




「……あ。」


さっき出された問題…、『offend』の訳。





「なになに…、『~の気分を害する』…?」



いつ出番があるって言うのさ、この英単語。






読書に勤しむフリをして。


ちらりと、彼に視線を送ると……。





『……!…ほら……!』



やっぱり彼はこっちを見ていて……、次第にその距離を…縮めていく。




「……彼が…私の元に…!」



「はあ?」



モモちゃんの呆れ声もなんのその。



すっかり妄想モードへと突入した私の視界はキラキラと光を放ち…、

そこはまるで、メルヘンの国。




私と彼の……二人っきり。





近づいて来た彼が、不意に…手を上げて。


爽やか過ぎる……挨拶。






「……セナくん!」


思わず声を上げて、ぶんぶんと手を振る…私。










………が、






「…………。あれ……?」



彼は私の元で止まる所か、直ぐ側を颯爽と通りすぎて。



少し先に待っていた、綺麗な女性の前で…足を止めた。





見事な…肩透かし。







「………。……きん、現実逃避はやめようか?」



「………はい。ただいま帰りました。」



「ふむ、お帰り。」









現実は……なんて世知辛いのでしょうか。




美女と談笑する彼に代わって、彼の横にいる友人らしき人が私たちへと振り返って……。



馬鹿にするかのように、あざ笑っていた。








「………。最悪……。」







ギロリと、その男を睨むと。


つられてこちらに視線を移した彼と……


今度こそ、目が合った。










「……………!」



こんな奇跡、二度とないと言うのに……、時、すでに…遅し。





セナくんの冷たい視線が、思いきり…突き刺さる。








まるで、興味も無さそうに 、ふいっと…目を逸らして。








仲間たちと、理解不能なこ難しい話をしながら…その場を去って行った。