――そして実際に、雨は大切なものを奪っていった。

 部屋の前に着いて、一応ノックする。

 …おかしいな、返事がない…。


「お兄ちゃん、入るよー?」


 入った、瞬間 アイツの姿が目に入った。


「―ッ、」


 ―ピー…ッ

 部屋中に響き渡る甲高い機械音。

 ねぇ…何の、音…?

 アイツを突き飛ばしてお兄ちゃんに駆け寄る。


「お兄…ちゃ、」


 後ろでカフェオレが落ちる音がした。

 直角にノドに突き刺さったナイフ。


「…そいつが悪いんだ、僕の藍架に…」


 早く…速く、ナースコール…!

 何回も押して、叫んだ。


「助けて!助けて!
 速く、はや…く…!」


 ゆっくり立ち去るアイツの後ろ姿。


「またね…藍架」