胸が締め付けられた。

 あの日の宏樹パパの言葉の意味が、やっとわかった。


『忘れないことは悪いことだとは思わない。
 でも縛られるのはだめだ』


 あれは、あたしだけに言ったんじゃ…なかったんだ。

 きっと春樹や…自分自身にも、言ってたんだ。


「春樹…ッ」


 ただ一言

 名前を呼ぶことしか出来なかった。

 涙が頬を伝う。

 いつも明るくて、頼りになる春樹。

 でも今こうして、体を震わせているのも春樹。

 抱きしめようとして…体が止まる。

 春樹があたしを、抱きしめたから。


「もう、大切な人には傷ついてほしくない…ッ。
 誰にも消えてほしくないんだ…ッ!!」


 あぁ、この人は…人の死を知ってる。

 それがどのくらい、世界を奪うことかを。