「シーナはね、それはそれは可愛い女の子だったね。気が利くし利口だし物覚えも良しときたもんだ。どんどんあたしの教えたことを吸収してったね。そりゃもうスポンジが水を吸うみたいに」
「……それで、なぜ彼女は外にいたんですか」
「なぜ?卒業したからに決まってるじゃないか。あんたに並ぶ出世コース並みの早さでね。4つ星ランクにまで昇格したもんでね。ここから出てくときなんか、レンに会えたらいいとか言っていたっけねぇ」
「……」
「どこに行くんだいって聞いたら、どこにも。ただ宛もなく、と言ってたわね」
「宛もなく……それではシーナさんはひとりで放浪の旅に出ていたのですね」
「そうさ。それで、帰って来たと思ったらこんな状態でねぇ。涙も出なかったよ」
ジェムニさんが泣くところなど想像つかない。
だが、確かに今は悲しんでいる場合ではない。
俺は、やらなくてはならないのだ。
「ジェムニさん、ルカンさん、グレン。皆に話すことがある」
俺は意を決して口を開く。その重さに気づいたのか、険しい表情をされてしまった。
しかし、俺は行く。助けに行きたいんだ。
話を聞いたルカンさんがまずため息を吐いた。
「あんた、もしかしてその話を真に受けてるの?そんなの、のこのこと敵陣の真ん中に突っ込むようなもんじゃないの。怪しいわ」
「騙しているとでも言いたいのですか?」
「正直に言えばね。でも、シーナちゃんのことを思うと放っては置けないし」
「……僕は、行くべきだと思うよ。やるべきことがあるんなら、実行するべきだよ」
「誰もあんたを止めるとは言わない。けどね、行け、とも言わない」
と、厳しいんだか優しいんだかわからない言葉を次々と浴びせられた。賛成なのか反対なのかいまいちよくわからないのである。
俺が浮かない表情をしていると、横から心強い声がかかる。
「俺も行くぜ」
「僕もです。行って損はないと思いますよ」
「ギルシード……ロイ……」
「大事な姫さんなんだよな?あいつがいないとどうも花がねーし」
「レンさんだけではきっと奪還は難しいでしょう。しかし、僕たちもついて行けばその可能性は上がるはずです」
「……そうだな」
「よっしゃ!決まりだな」
と、ギルシードが勢い良く立ち上がった。俺とロイも立ち上がる。そしてお互いに顔を見あった。
「明日、出発しよう」
俺たちの旅が、また、始まる。