「・・・もしもし」

・・・出なければよかった。心底思った。


電話をする私の顔はみるみる険しくなっていく。

飛鳥さんは黙ったまま、私を見つめていた。


・・・ピッ。

通話が終わり、携帯を切る。


「…どうした、そんな顔して?」

私の手を握りしめたまま、飛鳥さんは聞く。


「・・・いえ、何でもありません」

私は精一杯の笑顔を作り、そう言った。


「なんでもないって顔じゃないぞ。誰からだったんだ?」

私のウソの笑顔は、飛鳥さんにはわかってしまったようだ。


「・・・」

「・・・薫子」

「…兄からです」


「…お兄さん?…なんだって?」

「家に帰って来いって」


「・・・なんで?」

「急用だと」

そう言うしかなかった。

電話の内容を、飛鳥さんに言えるわけがない。