玄関ホール、石坂は誰かに微笑んでいた。

…目線だけをそちらに向けると、

そこには、薫子の姿があった。

何か言いたそうな顔をしてるように見えたのは俺だけだろうか?


「…石坂」

「なんですか?」

「…いや、何でもない。急ごう」

「はい」


彼女をもう一度見たくて振り返ったが、

もうその場に姿はなかった。

待ち合わせ時間は午後7時。

それまでに片を付けてやると思いながら、

取引先に急いだ。



…午後6時50分。

何とかすべてが終わった。

俺の仕事は確認作業だけだったので、すぐに終わらせることが出来た。

だが、取引先から待ち合わせ場所まで15分はかかる。

彼女に申し訳なく思うが、少しは待っていてくれるだろう。

ついたら一番に謝罪しなくては。

そう思いながら、待ち合わせ場所まで急いだ。

…待ち合わせ場所に着いたのは午後7時5分。

まだ彼女の姿はなかった。

安堵の溜息をつき、席に着いた途端、思い出してしまった。


石坂の曖昧な返事の仕方に。